FC東京が新しい道を歩み始めた。2月18日のオープニングマッチで川崎フロンターレと対戦し、0-1で敗れたものの、王者を上回るプレーも見せて今後に大きな期待を抱かせた。新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも堂々と披露した新スタイル。その行方は?

上写真=松木玖生のデビューは驚きだったが、レアンドロを生かす賢いプレーでさらに輝いた(写真◎小山真司)

■2022年2月18日 J1リーグ第1節(等々力/17,544人)
川崎フロンターレ 1-0 FC東京
得点者:(川)レアンドロ・ダミアン
    (F)なし

幅と奥行き

 アルベル監督の言葉を借りれば「180度の方向転換」である。FC東京はファストブレイクを武器にした昨季までの堅守速攻型から、新指揮官が掲げるポジショナルプレーを基軸にしたスタイルに生まれ変わろうとしている。

 2月18日、王者・川崎フロンターレとの「多摩川クラシコ」で披露したのは、その片鱗だった。「まだ1カ月しか経っていないからミスは起こりうる」とアルベル監督は強調するが、すればするほどこの試合で選手たちが見せたプレーは際立ってくる。多くの時間で川崎Fを押し込んだからだ。

 アルベル監督は「最初の15分ほどはドタバタしたが、あとは最後まで自分たちのペースだった。相手の明確なチャンスも昨年の得点王に決められたシーンだけだった」と言い切った。敵将の鬼木達監督に「途中で難しい試合になることが分かったから、割り切るところは割り切ろうと」と方向転換させたほどだ。

 では、一体何がどう変わったのか。

 ひと目で分かるのは、選手のベーシックな配置だ。昨季の基本形となった4-2-3-1から、4-3-3ベースの布陣でスタートしている。コンディションを考慮したこともあるだろうが、特徴的なのが右サイドバックに渡邊凌磨を起用したこと。本来攻撃的なMFだが、ボールがしっかり収まる技術の持ち主だから、「ボールを愛する」スタイルを象徴する起用と言えるだろう。

 GKのヤクブ・スウォビィクとセンターバックの木本恭生、エンリケ・トレヴィザンと中央は新加入選手が固め、左サイドバックには小川諒也を起用。長友佑都はベンチスタートだった。中盤はアンカーシステムを採用して青木拓矢を中央に陣取らせつつ、前への推進力もプレスバックのパワーも併せ持つ安部柊斗と松木玖生(高校生ルーキーがいきなりデビュー!)を据えて高強度を担保した。最前線は中央にエースのディエゴ・オリヴェイラが構え、左は快足の永井謙佑、右にレアンドロという並び。

 アルベル監督はアルビレックス新潟を率いていたときから「幅と奥行き」の重要性について、何度も言及してきた。両サイドではタッチラインいっぱいに人を配して、相手の守備陣形を分散させる。前線では相手の守備ラインの裏を狙うこと、あるいはそうやってラインを押し下げさせてその手前のエリアを使うことで奥行きを確保する意図を明かしてきた。どちらも、自分たちがプレーするエリアを広げる効果を狙ってのことだ。

 川崎F戦ではディエゴ・オリベイラが最前線の中央で相手の注意をひきつけながら、永井とレアンドロが裏抜けを狙って、24分や51分のビッグチャンスを作っている。まさに奥行きを利用した攻撃だ。これに対して、幅の取り方は左右で異なっていた。左は主に永井が大きく開くポジショニングを取ったが、右はそう単純な形ではなかった。ここに、この試合におけるFC東京ならではのメカニズムが組み込まれていると言えそうだ。

松木玖生の賢さ

 前半の23分頃、プレーが一度切れたタイミングで、FC東京の選手たちが水分補給のためにベンチ前に集まるシーンがあった。飲水タイムではないのだが、アルベル監督が選手たちに細かく指示を送っている。


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