「それは秘密ですよ」と笑ったのは、ディエゴ・オリヴェイラだ。そのときにどんな指示があったのかを聞いても詳細は避けたが、「立ち上がりからポジションが良くなかったので監督が修正して、選手で共有しました」とヒントは口にしている。
左サイドはわかりやすく永井が幅を取るが、右サイドが複雑だった。レアンドロはディエゴ・オリヴェイラとのコンビが強烈だから、中央でのプレーを好む傾向にある。だから右サイドのスペースは空くのだが、レアンドロ、松木、渡邊が入れ代わり立ち代わり、利用しているとも言えた。ただ、この指示のあとにレアンドロが攻撃のスタートポジションを外に置くことが増えると、一気にビッグチャンスが巡ってくるようになったのだ。
そこには松木のスマートさも関係してくる。その右サイドのメカニズムについて聞いてみた。
「凌磨くんとは練習試合や練習で守備の行き方のところで声を掛け合ってきましたし、レアンドロが一番やりやすいポジションを取ろうしていて、レアンドロが中に入れば外に、外にいれば中に入って、というように、レアンドロを見ながらサッカーすることを今後も続けたいと思います。その上で、もっと自分を出したい」
確かにレアンドロが中央に入って外が空けば、スプリントをかけて駆け上がった。レアンドロが大きく開けば、中央でトップ下のような位置にせり出していって、ディエゴ・オリヴェイラの近くでチャンスをうかがった。その点では、松木がレアンドロを気持ちよくプレーさせながら、右サイドの幅と奥行きを生み出す役割を果たしたことになる。
「連覇中のチャンピオンを相手に、ここまでしっかり支配できました。私の選手に対する誇りがいかに大きいかは、みなさんにも想像できると思います」
アルベル監督は雄弁に選手を称えた。
スコアは0-1で、得点を奪えていない。だから、「完成度は20%にも満たない」とも認める。それでも「幅と奥行き」の基本設計に、レアンドロと松木と渡邊(56分からは長友を右サイドバックで起用)の個性を響かせ合いながら右サイドの機能を高めた。注目されるオープニングマッチでプレービジョンを高らかに示したインパクトは、とても大きい。
「自分たちがスタイルを貫けば、相手のプレーには影響を受けません」
まだたった90分だけのプレーだが、だからこそ、ここからどんな進化を見せるのかという興味が生まれてくる。今年のJリーグで大きな話題の一つとなりそうだ。
取材◎平澤大輔 写真◎小山真司