上写真=旗手怜央は三笘薫のユニフォームを着てシャーレを掲げる。初の日本代表入りも果たし、順調にステップアップしている(写真◎小山真司)
「感謝の思いで着ました」
熱い涙が止まらなかった。
11月3日、川崎フロンターレが浦和レッズに引き分けて試合が終わったあと、少し間があって横浜F・マリノス敗戦の報が伝わった。J1連覇! そのとき旗手怜央は涙をあふれさせ、慰められるように次々に仲間に抱き寄せられた。
「リーグ戦では1年間、頑張ってきた成果が出た瞬間で、優勝してみんなが喜ぶ姿を見てうれしくてああいう姿になりましたね」
すべてに手を抜かずに全力で立ち向かっていくからこそ、泣くのも全力だった。そして、スタッフに一着のユニフォームを渡された。夏にベルギーに移籍してチームを去った、同期の三笘薫のものだった。背番号18を手前にして着て、シャーレを掲げた。脇坂泰斗は、同じくドイツへ渡った田中碧のユニフォーム。
「スタッフさんがユニフォームを渡してくれて、すぐに着ようと思いました。夏までは薫と碧がいて中心で引っ張っていたのは間違いないので、本当にあの2人がいなければ優勝はありませんでした。感謝の思いで着ました」
三笘とは普段から連絡を取り合っているというが、久々に再会を果たすことになった。2人一緒に日本代表に初めて選出されたのだ。カタール・ワールドカップアジア地区最終予選のアウェー2連戦、11月11日のベトナム戦と16日(現地時間)のオマーン戦に臨む。
東京オリンピックからの順調なステップアップだが、日本代表の一員としてプレーする自分については「初めてなのでイメージはまったくない」というのが本音だ。「簡単にイメージできるほど甘くない」世界だと感じていて、だから「自分のプレーを出すだけです」と無欲の境地にいる。
日本は最終予選で4試合を終えて2勝2敗でグループBで4位と苦境にある。直近のオーストラリア戦では、川崎Fのそれに近い4-3-3システムを採用、川崎Fでともに戦った守田英正と田中が先発で起用されて、チームの戦いを見事に変えてみせた。そこに、三笘はもちろん、代表復帰となった谷口彰悟、山根視来も合流して、4-3-3システムの日本代表で力を発揮する素地ができたと言えるだろう。
メンバー発表の際の登録ポジションはDF。今季の前半は左サイドバックで印象深いプレーを続けて、東京オリンピックの代表入りも果たした。だが、シーズン後半はインサイドハーフで出色の出来。
「いまはインサイドハーフをやっているので、(サイドバックは)すぐにできるかはわかりませんが、役割であればやらなければと思っています。でも、どこで出ても自分らしいプレーをしようと思います」
川崎Fの鬼木達監督はサイドバックにコンバートしたころのことを振り返る。
「もちろん、やりたいポジションはあると思いますけど、それにとらわれずに頭を柔軟にしたことが大きいと思います。もともと持っているポテンシャルは素晴らしいので、どのポジションでも旗手怜央でいろ、という話はしてきました。代表でもどこでやっても力になれると思います」
プレーは強度高く、頭は柔らかく。そのコントラストが旗手の魅力だ。
「僕自身は、まだ選ばれた実感がないというか信じていないというか、入ったんだ、という思いがあります。日本のために頑張りたい」
次はその全力プレーで、日本代表の力になる番だ。