上写真=右サイドバックとして先発した森下龍矢(写真◎J.LEAGUE)
冷静でいられた自分はすごいなと。
4バックの右サイドバックでプレーした前半は対峙するアダイウトンを警戒して守備に心を砕き、後半途中、チームが3バックに変え、右ウイングバックにポジションを変えてからは攻撃に力を注いだ。結果を言えば、セットプレーからではあるものの、アダイウトンに決められた。
しかし、である。チームが追いかける立場となり、攻撃姿勢を強めて以降、森下はその持ち味を発揮した。「サイドバックよりも0.5列ぐらい上がったところで攻撃的になれたので。2点取られてからですけど、より前に行かなきゃいけない中で、僕の推進力が生かせたと思います」。2戦合計スコアで4-3と勝ち越すことになった稲垣祥のゴールの場面。森下は『作り』と『ボックス内の判断』で大きく貢献した。
自陣後方からのサイドチェンジのパスを右サイドで収めるとシンプルにガブリエル・シャビエルにはたき、再び受け取って相手の動きを見極める。そしてG・シャビエルにもう一度パスを出し、そこからシュヴィルツォク、稲垣、吉田豊とボールが動く間に、森下自身はボックス内まで走り込んでいた。
左ウイングバックの吉田から供給されたクロスはシュヴィルツォクに合わず森下のもとへこぼれて来た。そこで相手の虚を突くプレーを見せる。シュートではなく、横パスを選択したのだ。
「(折り返したのは)閃きでした。FC東京の選手はおそらく全員が『こいつがシュートを打つ』と思ってるんだろうな、と思しました。その裏をかくというか、それだけ冷静でいられたのは自分でもすごいな、と思います。そういう試合中に相手の頭の中を読むことはよくやるので、逆をいこうと直感的に折り返したらクバがいて、祥くんが詰めて、という感じになりました。ゴールが取れて良かった」
展開もボックス内の粘りも、関わった全員が諦めずゴールを目指した結果、生まれたゴールだったが、その過程において森下が果たした役割も大きかった。
「優勝しなかったら何も残らない。大学時代だけの優勝経験ですけど、優勝は素晴らしいし、言葉に表現できない、心に込み上げるものがある。それを名古屋グランパスのみんなで分かち合えたらいいと、心の底から思っています。一喜一憂せず、次の試合に向けて頑張りたい」
名古屋加入後はサイドハーフでプレーする機会が多く、サイドバックで出場することはなかったが、重要なゲームでチームのために走り、戦い、プレーの幅も示した森下。あと1試合で、その名を名古屋グランパスの歴史にしっかりと刻むことになる。