上写真=戸嶋祥郎がおよそ9カ月ぶりに帰ってきた。ファン・サポーターの大きな拍手で迎え入れられた(写真◎J.LEAGUE)
■2021年6月23日 明治安田生命J1リーグ第19節(@三協F柏/観衆3,263人)
柏 0-2 浦和
得点:(浦)宇賀神友弥、柴戸海
「流れを読んで実行することはやっていきたい」
試合開始を前に選手がピッチでアップしているときに、アウェーゴール裏スタンド上部にあるビジョンで試合登録メンバーが順に発表される。ベンチ入りを果たした戸嶋祥郎の名前がアナウンスされると、場内から一斉に温かい拍手が送られた。
その直後、シュート練習で放った左足のフィニッシュがきれいにゴールに飛び込んだ。
昨年9月27日のJ1第19節横浜F・マリノス戦で相手と交錯して負傷、即座に担架で運ばれた。クラブから発表されたのは「左脛腓骨骨折で治療に約4~6カ月を必要とする見込み」だった。だから、スタンドから注がれた拍手は「お帰りなさい!」の思いがこもった温かみあふれるものだった。
74分には出番が巡ってくる。ドッジに代わってピッチに飛び出すと、また大きな拍手が届けられた。0-1のビハインドだったから、今度は「頼むぞ!」の気持ちも加わっていただろう。
「リアクションは僕も感じていました。いろんな方が気にしてくださったのは感じていたので、少しでもそういう方々に恩返ししたい思いで入りました。でも、それがなかなかできなかったのは残念です」
81分にはCKから押し込まれてリードを広げられた。戸嶋自身はもちろん個人的な「復帰戦」の高揚に浸る暇もなく、ボールを奪うために得意のスタミナを活用して何度もスプリントを繰り返していった。
「個人的には途中から入ったからか、実戦から離れていたからなのか、心肺のところできつかったですけど、試合の入り方やコンディションは引き続き、試合で上げていくしかないと思います。やっていきながら、チャンスをもらったときに上げていければなと思っています」
およそ9カ月ぶりのピッチだ。ジュニアユース時代を過ごした浦和を相手にした試合でピッチに帰ってくることができたのも、何かの縁だろう。しかし、すべてがうまくいくほど甘くはない。ただ、リハビリ期間にはスタンドから俯瞰して、この日は最初はベンチで戦況を見つめ、そしてピッチに立って感じていたことがある。それを総合的に判断した上で、0-2の敗戦とその内容はどちらもやはり「悔しかった」に帰結する。
「チームとして失点の時間帯や失点のし方のところで、ばらつきが出てしまったと感じています。僕が落ち着かせられたらよかったんですけど、できずに終わって悔しかった」
「スタンドで見ている機会が多くて、強度が低いのは感じていました。戦術どうこうというよりもそういうところや、相手より一歩早く動いて優位性を取っていくのがレイソルの戦いですし、僕の強みでもあります。そこで(接触プレーへの)怖さが出なかったので良かった」
負傷明けで恐怖心がないという事実は、今後に大きな期待を抱かせるに十分だ。ネルシーニョ監督もチームが4連敗と苦しい時期の待望の復帰に、「守備と攻撃のつなぎをうまくやれる選手で、攻撃に出ていったときに決定的な仕事もできます」と喜びと期待を隠さない。
「最低限、戦う姿勢を見せるのは自分の良さです。落ち着かせるプレーや流れを読むプレー、そして流れを読んで実行することはやっていきたいし、チームの中心になりたいと思います」
ケガをして、強くなった。「強化版サチロー」がこの夏にチームを引き上げていく。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE