上写真=鹿島とのしびれる試合に終止符を打ったのは、長谷川竜也のクロスから。練習どおりのキックだったと胸を張る(写真◎J.LEAGUE)
三笘薫は「一番衝撃を受けている選手」
5月30日のJ1第17節、川崎フロンターレ対鹿島アントラーズ戦は拮抗していた。19分に川崎Fがレアンドロ・ダミアンのゴールで先制して優位に進めれば、後半にギアを上げてきた鹿島が鋭く攻撃を仕掛けて61分に上田綺世が同点ゴール。長谷川竜也がピッチに送り込まれたのは、その3分後だった。
一進一退の攻防が続いたあとのアディショナルタイム、長谷川は左サイドでボールを受けると迷わずカットインして、右足でインスイングのクロスを送った。これが相手に当たって逆サイドにこぼれ、小林悠が蹴り込んでついに決勝点。劇的な勝利をもぎ取ったのだ。
「相手の選手と対峙しているときに縦を切る印象があったのでカットインして、いつも練習しているところに蹴ろうと意識したら入ったので、練習の成果が出ましたね」
長谷川は地道なトレーニングが実を結んだことを強調する。
「ファーに蹴るとピンポイントで合わない限り得点にならないと思っていました。知念(慶)といつも練習しているので真ん中あたりを目掛けて蹴りました」
左サイドでボールを足元に入れたときに、縦に突破するかカットインするかで選択肢は大きく分けて2つあるだろう。このシーンではカットインを選択した。そこにはどんな基準があるのだろう。
「基本的には相手のタイプが重要で、足が速い選手は縦に行っても対応するのに慣れている印象があります。ボールを細かく触るのかさらすのかということもありますが、さらしたときの印象というか、縦に構えているなと思えばカットインするし、カットインが嫌になれば縦に行くコースが開きます。開けば行くし、開かなければカットインですね。言葉で伝えるのは難しいんですけど、縦にコースが見えればいくし、カットインのコースが見えればそっちに行く感覚です」
決勝ゴールのシーンでは鹿島の右サイドバック、常本佳吾が対応しに来ていたが、中を選んだ。「あそこはトラップしたらカットインと決めていたので、相手のタイミングを見て」から入っていったのだが、この試合ではそれ以外でも縦に仕掛けるよりはカットインを選ぶ回数を増やしていたのだという。どちらを選ぶかは、相手だけではなくて自分たちの置かれた状況も関係してくる。
「チームとして縦に運んでギリギリの勝負をするより、カットインを選んだほうがチームの流れが良くなるかなというところもありました。自分が行きたいから行くというよりも、苦しい時間でもあったので、落ち着かせたりボールを振りながらチャンスをうかがっていきたかったので、カットインを増やしました」
目の前の相手の状況を分析しながら、試合の大きな流れも加味していく。その選択には深い意味が込められている。
川崎Fの左ウイングは、昨季、長谷川が負傷する間に三笘薫が台頭してきた。今季は長谷川も出番を増やしているが、「いままでプロでやってきた中で一番衝撃を受けている選手」とその卓越した才能を認める。三笘はこの鹿島戦のあとにU-24日本代表に合流するためチームを離れた。いまこそ、長谷川への期待は高まる。
心がけるのは「同じポジションで比較されることが多い中で、そこにあまり気持ちを持っていかれないように」ということだ。「薫は薫で、自分は自分だと気持ちを整えないと自分の良さを忘れてしまう」から。
そうやって、一緒になって高めあっていきたい、とライバルの存在を見据えている。