上写真=ついに名古屋でのデビューを果たした森下龍矢。古巣の鳥栖との対戦で実現したのも何かの縁(写真◎J.LEAGUE)
名古屋の紅白戦が日本で一番すごい試合
「希望に満ちた40分でした」
4月18日のJ1第10節で名古屋グランパスの一員と初めて出番を得た。ようやく、だ。
相手が昨年まで所属したサガン鳥栖だというのも何かの縁だろう。熱い男のデビュー物語を彩るエピソードにはふさわしい。
ピッチに送り出されたのは54分のこと。前半で奪われた2点のビハインドを取り返すことが最大のミッションだ。
「名古屋グランパスの紅白戦はものすごくレベルが高いし強度が高いので、紅白戦が日本で一番すごい試合だと思って練習していたので、すっと試合に入れました。いつも以上のプレッシャーは感じなかったのが第一印象です」
ピッチに入る前に、マッシモ・フィッカデンティ監督からは「思い切ってやってこい」と声をかけられたという。
「あ、やっていいんだ、と。これまではそんなことを言われたことがなかったのに、放たれた獣のようにやっていいんだと。それが気を楽にしてくれました」
独特の表現で,デビューの瞬間を振り返った。
85分のプレーは、まさにその「獣」のパワーを全開にしたと言えるだろう。山崎凌吾のパスを受けてドリブルで迷いなくぐんぐんと前進してクロスを送った。これははね返されたが、こぼれ球を稲垣祥がボレーシュート、相手に当たりながらもねじ込んだ。実質的なアシストで、しっかりと結果を残してみせた。
この日までに6試合でベンチ入りしていたが、出番は訪れなかった。その時間の分だけ、深く思考をめぐらせたという。
「何のためにサッカーを頑張るのかということに気づけたんです。じっくり考え直す時間を作れて、そこが僕の成長につながったと思っています」
自分のためではなく、応援してくれるすべての人のためにサッカーをする。その原点に戻ることができた。
「この1試合、たった40分程度かもしれないけれど、持つ意味が僕にとってものすごく大きくて。試合に出られずに、自分の進む方向性が合っているのか分からない手探りの中で積み重ねをしてきましたけど、この40分で合っていたんだと気づくことができました。この方向性をぶらさずにいけば、代表もあると思うし、もしかしたらオリンピックも。そんな希望に満ちた40分でした」
明るく前向きで、力強い言葉のオンパレード。鳥栖には1-2で敗れて今季初黒星を喫したが、森下の言葉とパフォーマンスが、そんなネガティブな要素をすべて吹き飛ばして突き進むパワーになりそうだ。