上写真=徳島戦に勝利し、選手、スタッフの喜びを分かち合う鬼木達監督(写真◎小山真司)
体の向きとボールの置き場所
開幕前、王者・川崎Fの懸念材料の一つが、守田英正が移籍したことで『空席』になったアンカーを誰が務めるかということだった。昨季より田中碧も務めてはいたが、田中はもう1列前のインサイドMFで、持ち前の攻撃力を発揮するケースが多い。実際、シーズンの中盤以降は守田がアンカーに定着し、田中がインサイドMFに入ることでチームは安定感を増していった。
今季、ここまでリーグ戦4試合すべてに先発し、アンカーを務めているのが新戦力のジョアン・シミッチだ。途中交代後はインサイドMFの田中がポジションをアンカーに移すケースや、塚川孝輝が担うケースもあったが、現状はアンカーの一番手と言っていいだろう。指揮官は、そのプレーと姿勢を評価している。
「(シーズンの)最初よりも彼らしいプレーが出てきていると思っています。当然、足りないところもあるんですけども、それは本人にも伝えながらやっています。できるだけボールに絡む仕事を求めているので、ちょっとしたポジショニングのところだったり、ターンの仕方だったり、他のチームとは違うことを要求していますが、本当に献身的に取り組んでいます」
川崎Fの鮮やかなパスワークの担い手となり、連動したプレスを実践者となるのは簡単ではない。ただ、指揮官によればシミッチは精力的にトレーニングを重ね、「攻撃のところも守備のところも、一つずつクリアして自分の良さを出し、要求にも応えながらここまで来ている」という。
鬼木監督がいま特にシミッチに求めているのが、体の向きとボールの置き場所の改善。それは「特長」を出すこともつながるからだ。
「いろいろなコースを見られる体の向きだとか、そういう要求はさせてもらっています。ただ、彼の持ち味でもあるのですが、ボールの持ち方によって、相手が的を絞りづらいキックの仕方をする。表現は難しいですけども、それをうまく利用してほしいというか、そのために意図をもってボールを止めてほしいと思っています。ですからそういう話もしながら、映像を見せながら今、トレーニングを進めているところです」
頻繁に最終ラインからボールを引き出し、展開する役割を担うアンカーは、相手の標的にもなりやすい。もちろん、周囲との関係性の中でそのプレッシャーをかい潜るわけだが、個人でその圧力をはがすことができれば、より優位に試合を進められる。シミッチ自身が特長を生かしつつ、川崎Fの攻撃を加速させることができれば、理想的だろう。本人もそのあたりは自覚しつつ、向上へ意欲を示す。
「まだまだ色んな部分で成長しなければいけないですが、その点を踏まえてもここまではいい状態だと思いますし、個人的に良いプレーができているのではないかと思っています。もちろんフィジカル面も技術面も、コンディショニングの面も少しずつ改善しなければいけない。そのために自分は日々、努力をしているので、さらに成長できると思います」
チームは4連勝中であり、結果は十分に出ている。ここまでは特段、アンカーが問題になってはいない。ただ、チームが目指すところは「昨季の自分たちを超える」こと。そこに向上の余地があるなら、徹底的に取り組んでいく。それが現在の川崎Fであり、強さの根源だろう。
シミッチがいま求められているものに応えられたとき、チームはまた一つ、階段を上がる。