上写真=天皇杯準決勝は中村憲剛にとって「等々力ラストゲーム」。決勝ではカップを掲げて現役に別れを告げるつもりだ(写真◎小山真司)
本当にミリ単位の戦いになる
18年間、サッカーの深淵を何周もはいずり回って、中村憲剛は最後にやっぱりここに戻ってきた。
「頑張って走りますよ」
2017年1月1日。第96回天皇杯で川崎フロンターレは初めて決勝に進み、中村はキャプテンとしてピッチに立ったが、先制されて追いついたものの、延長戦で突き放されて準優勝に終わった。相手は日本で最も多くのタイトルを獲得してきた鹿島アントラーズだった。
「そこを埋めようとこの4年間、やってきました」
あのときの鹿島にあって川崎Fになかったもの。それは、スキを突くことの本気だった。
「あの決勝点はセットプレーの流れだったんですけど、自分を含めて集中力が切れていましたし、そのスキを突くのが上手なのが鹿島でした」
その試合が当時の風間八宏監督の最後の試合で、次のシーズンからいまの鬼木達監督が引き継いだ。その年末に初めてJ1リーグを制して、「シルバーコレクター」の汚名を返上している。しかし、4年前のピッチに置き忘れたものもある。
「スキを見せない、水を漏らさないということ。集中、という言葉は独り歩きしちゃうので扱いが難しい言葉で、サッカー選手って集中集中って言ってても失点するわけで、そこは本当に難しいところですけど、体を張るとか最後のところで足を伸ばすとかやらせないとか、相手の頑張りを超えて決めきるとか、本当にミリ単位の戦いになるので、そこを勝って上回ろうとやって来たチームなんです」
鬼木監督と歩んだ4年間の集大成が、2021年元日の決戦。あの鹿島のように、チームとして、クラブとして「本当の強さ」を手にしたかどうかを証明する、自分たちとの戦いなのだ。そのために、何が必要だろうか。
「スキの突き合いだと思います。やりたいことをやって勝つのがベストですけど、それをさせないこと、(決勝戦という状況は)そういう空気になりにくいというところはあるので簡単じゃないと思いますし、だからといってやって来たことを放棄することもないので、やって来たことを全面に出すのが勝利への近道だと思います」
G大阪との前回対戦は11月25日のJ1第29節で、5-0というパーフェクトな勝利でリーグ優勝を決めた。だからこそ、G大阪はリベンジに燃えるはず。
「ガンバがまずどういう戦い方で来るのは入ってからじゃないと分からないですよね。前から来るのかブロックを作るのか。相手を見ながらしっかりやっていきたい」
川崎Fはもちろん攻め抜くだろう。G大阪はどうするか。押すのか引くのか、決勝特有の微妙なバランスの取り合いの果てに、スキは生まれる。そのときに、突くのはどちらか。
そんな戦いを前にして、中村は特別な意味を持つ「最後の決勝戦」に、最もシンプルな姿勢で臨んでいくことを明かした。
「勝利のために全力を尽くす姿を最後まで見せたいと思いますし、そういう役割だと認識しています。頑張って走りますよ!」
90分、あるいは延長戦、あるいはPK戦を終えたときに笑っていたい。そのときに中村の目に映るものはなんだろうか。
「現役ラストで元日に新国立でプレーできるというのは名誉なことだと思いますし、いままでいろんなことを言語化してきた人間ですけど、言葉にするのは難しいです。ラストが1月1日の新国立だなんて、僕がプロになったときには誰も想像できませんでしたからね。信じられないことばかり起きてきましたけど、最後もみんなで力を合わせて勝つだけです。そうすれば、また違う景色が見えるはずだと思います」