J1の湘南ベルマーレが新型コロナウイルス対策のためのチーム運営費などの補てんを目的としたクラウドファンディングで目標の5000万円を上回る8510万8380円を調達した。プロジェクトを成功させたチームの舞台裏に迫った。

上写真=クラブの歴史が詰まった20周年限定2000年復刻ユニホーム(写真提供◎湘南ベルマーレ)

取材・文◎杉園昌之

初日だけで1800万円

 驚くべきスタートダッシュだった。

 2020年8月30日、湘南ベルマーレのクラウドファンディングが始まると、すぐさま支援金の申し込みが殺到した。初日だけで集まった金額は約1800万円。1カ月半で5000万円を目標にしていたクラブにとっては、うれしい誤算である。プロジェクトをサポートし、クラウドファンディングサービスを運営している『READYFOR(レディーフォー)』の関係者も目を丸くしていた。

「過去の事例を見ても、初日でここまで入ることはないと言ってもいいくらいです」

 これこそが成功の秘訣の一つ。クラウドファンディングで多額の支援金を集めるために肝となるのは、"最初"と"最後"だという。

「ベルマーレさんは、スタートの設計がしっかりしていました」(READYFOR関係者)

 計画が動き始めたのは6月下旬。きっかけはサポーターからコロナ禍におけるクラブの状況を心配し「何か力になれることはないか」という声が多く寄せられこととコロナ禍でクラブ経営に打撃を受けていることを憂う選手からの提案だった。湘南でプロモーションユニットのリーダーを務める渋谷剛氏は馬渡和彰を通じて、クラウドファンディングサービスを運営する「READYFOR」と話をすると、すぐに興味を持ち、設計図を描き始めた。クラブ上層部のゴーサインも早かった。

 目標金額の5000万円は、水谷尚人社長の鶴の一声。熟考したのは、支援金に対するリターン(返礼品)。クラブ全体からアイディアを募った。営業担当から現場の広報、そして選手たちからも意見を聞いた。ミーティングを何度も重ねた結果、主要アイテムとしたのは20周年記念グッズ。今年はベルマーレ平塚から湘南ベルマーレへ名称変更してからちょうど20周年にあたるのだ。

「もともと20周年記念事業としてやりたいことがたくさんあったんです。コロナ禍でいろいろとストップしていたので、この機会に進めようという話になりました。記念グッズ、記念ユニホームを手に取った人が、5年後、10年後に、振り返ってもらえるものがいいよねって。コロナを一緒に乗り越えた証になるものをつくたいと思ったんです」

 ユニホームサプライヤーの『PENALTY』には無理を承知の上で頼み込み、約2週間ほどでデザインを上げてもらった。そして、8月下旬に出来上がったのが、ベルマーレの歩んできた歴史が詰まった20周年限定2000年復刻ユニホームである。記念グッズも続々と完成。

 情報発信も綿密なプランのもと進めていた。8月上旬にはクラウドファンディングを実施するインフォメーションを流し、SNSなどを通じて周知に励んだ。選手たちを含め、クラブ全体で取り組んでいた。

 クラウドファンディングをスタートさせる日は、毎年恒例のクラブカンファレンスの当日に設定。その場で眞壁潔会長が、なぜクラウドファンディングをいま行うのかをファン・サポーターへ丁寧に説明した。成功へ導く初めの一歩は、2カ月にわたる準備の結果と言ってもいい。

画像: プロモーションユニットのリーダーを務める渋谷剛氏(写真◎湘南ベルマーレ)

プロモーションユニットのリーダーを務める渋谷剛氏(写真◎湘南ベルマーレ)

 ただ、クラウドファンディングはスイッチを入れて終わりではない。むしろ、ここから地道な努力を続けた。開始直後は右肩上がりで伸びた支援金も、徐々に落ち着きを見せていく。それでも、毎日のようにSNSで支援金の合計額などの現況を報告。支援してもらった人からはこんな声をもらった。

「毎日のように動いていく数字にわくわくしています」

 まるで自分ごととして捉えてもらっていた。一度水をあげた草木の成長を見守るような感覚だったのかもしれない。

「SNSを通じて、日々コミュニケーションを重ねることが大事だと思いました。ファン・サポーターの方も一緒に数字に追いかけてくれていたと思います」

 飽きがこないように工夫を凝らし、追加のリターン品を出すタイミングなども考えた。情報発信はクラブ内だけではなく、ホームタウンの市町村長にも協力を仰ぎ、SNSで情報を発信してもらった。クラウドファンディング開始から約1カ月。早くも目標達成の5000万円まで、残り900万円に迫った。カギとなるラストスパートだ。

 9月27日に追加のリターン品を投入し、SNSで数日に分けてカウントダウンを始めるプランを立てた。迎えた当日の朝10時。予定どおりリターン品を出すと、またたく間に数字が伸びていった。大急ぎでカウントダウンのSNSを更新、更新を重ねると、気がつけば終了していた。

 驚くのはエクストラステージが待っていたことだ。10月に入っても勢いは止まらず、10月16日の応募終了期間のぎりぎりまで支援金額は伸び続けた。10万円に価格を設定した全選手の直筆サイン入りユニホームは用意していた枚数はすべてなくなり、3万円の復刻版ユニホームも計1200枚近くはけた。クラブ関係者によると、通常では考えられない数字だという。最終支援金額は、当初の予想を大きく超える8510万8380円。支援者数は4541人。達成率は170%。(※READYFORを通じた支援とクラブへの直接支援の合算)

「成功の要因はひとつではありませんが、これまでベルマーレとファン・サポーターが築き上げてきた絆だと思います。本当に感謝しかありません」

 プロジェクトを進めてきた渋谷氏の言葉には、あふれる思いがこもっていた。クラウドファンディングサービス「READYFOR」で資金調達の伴走サポートをしている、キュレーター事業部マネージャーの小谷なみ氏は言う。

「ベルマーレさんには普段から築いていたSNSコミュニケーションの土台がありました。集まる金額は必ずしも入場者数あファン・サポーターの数とは比例しないと思います。熱量ですね。あとやはり、コミュニケーションは大事」

 現在Jリーグでは、川崎フロンターレ、サンフレッチェ広島などがクラウドファンディングを実施中。「READYFOR」では今年Jリーグ10クラブがクラウドファンディングを実施し、支援総額は5.2億円になるという。

 J1ではファン・サポーターの分母が決して大きいとは言えない湘南の成功モデルから見えるものは、きっと多くあるはずだ。
 

画像: READYFORのキュレーター事業部マネージャー・小谷なみ氏(写真提供◎READYFOR)

READYFORのキュレーター事業部マネージャー・小谷なみ氏(写真提供◎READYFOR)


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