上写真=ゴールのあとに小林悠と中村憲剛が抱擁。等々力のリーグ戦ではこれは見納めになった(写真◎J.LEAGUE)
「半身のあの感じのフォーム、持ったときの感じで」
「決めた瞬間、うわあ、って叫びましたね」
不思議なゴールに、小林悠の感情が解き放たれた。
J1第33節の浦和レッズ戦。11分に先制されたものの、53分に守田英正が決めてまず同点。これはずっと狙ってきた記念のJ1初ゴールだった。すると6分後には三笘薫が決めて逆転した。前回何度か失敗していたヘッドで押し込んだこの一発は、新人選手最多得点記録に並ぶ今季13点目だった。それぞれが意味のあるゴールでスコアをひっくり返すことに成功したが、チームとして1試合3ゴールを掲げているだけに、攻撃の手は緩めない。
小林は前半からチャンスをつかみながら決めきれず、「今日はもう点を取れないのか」と思っていたという。
「でも、守田が初ゴールを決めて、薫が新人記録に並んで、となったときに、自分も何かやりたいというか、ホーム最終戦だったので憲剛さんからのパスを決めれば、絵になるじゃないですけど、そういうイメージを持って何とか1点取りたい気持ちで自分に要求していたんです」
この日は今季のリーグ最後のホームゲームで、それはつまり、引退を表明している中村憲剛のリーグ戦における等々力ラストゲームであることを意味していた。その試合で中村は先発していた。守田が決めた。三笘が決めた。そして本当に不思議としか言いようがないが、壮大な物語における伏線を回収するかのように、あるいは始めから運命によってそうだと決まっていたかのように、そのときは本当にやって来たのだ。61分のことだった。
「アキくん(家長昭博)から憲剛さんに入って、(山根)視来が右サイドをランニングしているのが見えていたので、まず憲剛さんに入ったときに視来に出すのかなと思ってたんですけど、半身のあの感じのフォーム、持ったときの感じで、長く一緒にやっているからか上げてくるなと勝手に体が動いたというか」
ペナルティーエリアの右角あたりで受けた中村は、右外へのパスの選択肢をちらつかせながらも、小林が中で待っていることを分かっていた。腰を折って右足を思い切り鋭角に振ってセンタリングを中央に送り込んだ。
「相手の選手もマークについてきていたけど、もうそこは先に触るか触らないか、滑り込んで何とか当たってくれという感じで、コースもうまく変えられました。あのタイミングで出してくれた憲剛さんもすごいし、僕が反応できたのは長くやってきたからだと思います」
「一瞬、先に触るか触らないかで勝負しているのがフォワードしてはあるので、滑り込んで先に触ったのはフォワードらしい、自分らしいゴールでした」
マークについていた橋岡大樹の少し前で右足を伸ばして、バウンドしたボールを蹴り出して、ゴール左に流し込んだ。
「憲剛さんだから、というのはあったと思いますね。憲剛さんだから体が勝手に反応したんです」
「無我夢中だったので、ちゃんと説明できないというか、体が勝手に反応したというのが説明としては正しいと思います」
人智を超えたテレパシーのようなものと言ったら大げさかもしれないが、川崎Fの歴史をカラフルに染めてきたプラチナコンビのきらめきが、「最後の等々力」で再び放たれたのだ。しかもこれが、2006年に川崎Fが記録していたシーズン最多の84ゴールを超える85ゴール目となった。
「(中村からのアシストによるゴールは)そうなればいいなとは思っていましたけど、それが最多得点更新のゴールになるというのはドラマチックだなというか、狙ってできるものではないですよね。ただ、憲剛さんからのアシストを絶対決めたいというのは強く思っていたところはあったので、しっかり狙っていた部分が結果につながってよかったと思います」
「憲剛さんと抱き合えてうれしかったですね。憲剛さんからのボールだったのは特にうれしかったです」
「たくさんこの人にゴールを決めさせてもらってきたので、それをもう一度思い返すじゃないですけど、リーグ戦の等々力での最後の最後の試合で出せたのはうれしかったですね」
また一つ、小林の中に忘れられないゴールが生まれた。