明治安田生命J1リーグ第16節で名古屋グランパスに競り勝った横浜FC。決勝点を決めたのは、途中交代の瀬沼優司だった。出場できない苦しい時期も、カズの背中を見て心を奮い立たせた男があの瞬間、冷静だったわけとは。

上写真=ゴールのあと、瀬沼は真っ先にベンチにいるカズのところに駆け寄った(写真◎J.LEAGUE)

■2020年9月13日 J1リーグ第16節(@ニッパツ:観衆3,290人)
横浜FC 3-2 名古屋
得点:(横)齋藤功佑、志知孝明、瀬沼優司
   (名)吉田豊、マテウス

「本当におめでとう。次、次だよ」

 うれしくて、瀬沼優司が真っ先に走っていったのは、ベンチにいるカズのところだった。抱き合って今季初ゴールを、そしてこの試合の勝利を呼び込むチーム3点目を喜んだ。

 カズ効果、というものは確かにあるのだ。決勝ゴールを挙げた瀬沼自身がそう強調する。

「カズさんはいつも試合前に連絡してくれて、がんばれよとか、ひと声かけてくれるんです。出たときに、やってやるぞという気持ちだけではなく、『頭は熱く、心は冷静に』という言葉をもらっていたので、シュートの瞬間は冷静でした」

 カズこと三浦知良が今季初めてリーグ戦でベンチに座ったゲーム。先制されながら前半のうちに逆転して、でも後半に入ると名古屋グランパスの圧力が増して73分には追いつかれた。そんな苦しいタイミングで来た78分のチャンス。

「僕はこぼれたところを蹴り込んだだけです」と謙虚だが、右からのクロスが相手に当たったボールを自分たちのものにしてくれた松浦拓哉からのパスを、無駄にするわけにはいかなかった。ゴール右で松浦からもらうと一つ右に持ち出して、マーカーを誘い込むようにしてから腰をぐっと回転させて低い弾道のショットを放つ。DF中谷進之介の股を抜いてゴール左に沈めるきれいな一撃は、まさに「冷静」がなせる技だった。

 今季はなかなかチャンスが巡って来なくて、この試合がまだ3試合目。苦しい時期が続くけれど、それでもすぐ隣にあの人がいれば、何が大事なのかは伝わってくる。

「選手なので試合に出たいとみんな思っています。でも、ネガティブなことを言わずに黙々とやる背中を見ていると、カズさんがやってるのに弱いところ見せてる場合じゃないと考えさせられます。カズさんの背中を見ながらモチベーションを保っていたので、今日に結びついたと思います」

 そのカズから贈られた祝福の言葉は「本当におめでとう。次、次だよ」だった。

「リーグは続きますし、今日で終わるわけではありません。一喜一憂するのではなく、みんなでいい競争ができているので頑張っていきたいです」

 そう、またカズと、仲間たちと次への競争だ。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE


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