上写真=松浦は1得点1アシストで横浜FCのJ1復帰後初勝利の立役者に(写真◎Getty Images)
「正しいポジションに立つことが最優先」
迷いのないパスだった。J1第3節の柏レイソル戦。21分、敵陣で瀬古樹が相手MFに鋭く迫ってボールをロストさせる。それが松浦拓弥の前にこぼれてきた。そのまま右足でワンタッチで相手の懐をえぐるような縦パスを潜り込ませると、走り込んだ斉藤光毅が左足でGKの脇を抜いた。先制ゴール! 斉藤にとってはJ1初ゴールという記念の一発を、その右足で導いてみせた。
「カットしたのが見えて、ちょうどサポートに入っていたところだったのでこぼれてきました。光毅の前のスペースが見えたので、うまくボールが渡ってよかったです」
ハイライトはもう一つ。前半終了間際に1-1で追いつかれ、後半は相手の圧力が高まることが予想される。そんな意識で入ってすぐの47分だった。左寄りでロングパスを受けた一美和成がヘッドで中に流し、斉藤がペナルティー・エリア内でこれをタッチ、しかし相手のクリアに遭ってボールが跳ねる。これがまたも松浦の目の前へ。しかし、右足でたたいたシュートはDFに阻まれてしまった。体勢を崩したが、ボールがマギーニョの前にこぼれたときにはすぐに立ち上がった。マギーニョのシュートが自分の足元に飛んできて、すかさず立ち足の後ろを通して右足かかとで流し込んでみせた。2018年5月2日の横浜F・マリノス戦で決めて以来のJ1でのゴールが勝ち越し弾となった。
「最初は光毅からもらおうと思って、彼が(自分のことを)見えてるか見えてないか分からなかったけれど、ゴール前に入りました。こぼれてきて一発目で決めたかったんですけどね。マギーニョのはシュートかパスか分からなかったけど、最後に決められてよかったです」
共通しているのは、目の前にボールがこぼれてきた、ということだ。偶然などではないだろう。中断期間に3-5-2のフォーメーションを採用した下平隆宏監督は、選手たちの前に出るパワーが出たこと、距離感が整ってきたことを効果として挙げたが、その恩恵を受けた。松浦に与えられたのはアンカーと最前線をつなぐインサイドハーフのポジション。守備では最終ラインの前でアンカーと並んで構え、攻撃ではボールに関与しながらゴールに近いエリアに進出してフィニッシュを狙う。
「どこでやっても自分の良さを出さないといけないのですが、(システム変更によって)より真ん中に近い場所でプレーするようになって、いままでやってきたところなのでやりやすいです」
生き生きとピッチを駆け回っているのは、そういうわけなのだ。
自分が生きるために、チームの規律にも忠実だ。攻撃時には「ハーフスペースを使おうと思っているけれど、相手によって空いたスペースが違うのでそれぞれで対応」して、「正しいポジションに立つことが最優先にくるので、チームとしても個人としてもボールを持った人以外の選手がそこを意識」している。守備では「後ろの選手の指示に従って追い込んで」いき、「自分の前にいる選手は自分が指示を出して」いく。こうして「チームとしての役割があって、いい距離感でいれば、チームも個人としてもゴールに近づけ」るというのだ。
昨年はわずか15試合2得点。規律違反があって8月半ば以降はベンチにすら居場所がなく、シーズンの終わりには下平監督から2020年の戦力外を示唆されるまでになっていた。しかし、この場所に戻ってきた。
だから、「試合に出られているし、試合がたくさんできることを楽しめています。勝っていいサッカーができればもっともっと楽しめる」と過密日程も大歓迎だ。
下平監督も「もともとサッカーセンスを持っている。パフォーマンスもぐんぐん上がってきている」と高く評価している。柏戦の1得点1アシストは、過去の自分自身への、そしてJ1に昇格したばかりの横浜FCが躍動するための、逆襲へののろしなのだ。