上写真=リーグ戦初先発の安部は後半、ポジション変更ではつらつ(写真◎J.LEAGUE)
髙萩洋次郎のパートナーを変更
長谷川健太監督は開幕前、4-2-3-1のフォーメーションをベースにした昨年のチームの課題として、サイドアタッカーの得点力の向上を挙げていた。チャンスは作るが決めきれない。それが、最後の最後でチャンピオンシャーレがその手からこぼれ落ちた原因の一つだと分析していた。
そこで、4-3-3である。
2月23日のJ1開幕戦、アウェーの清水エスパルス戦では4-3-3で臨んだ。中盤の「3」は成長著しい橋本拳人をアンカーとして配置し、その前に高萩洋次郎と三田啓貴。前線の「3」はエースのディエゴ・オリヴェイラが中央で圧力をかけ、右に田川亨介、左に新加入のレアンドロが入った。55分に三田に代わってアダイウトンが入ると、今季最大の武器となるブラジル人3人による「トリデンテ」(三叉のやり)が完成。結果的に、この3人のゴールで逆転勝利を収めている。
というわけで、橋本を軸にした中盤の三角形と前線のトリデンテが、チャンピオンの座をつかむためにこのチームが選んだ新しい魅力になるのは間違いなかった。ところが4カ月の中断を経て姿を現したのは、昨季の4-2-3-1に近いような4-3-3だった。
体調不良と伝えられる橋本が欠場したことでパワータックラーを欠いたこと。長谷川健太監督いわく「柏はバイタルエリアを使うのがうまいチーム」という分析を施していたこと。この2点から、最終ラインの前には髙萩洋次郎とルーキーの安部柊斗を並べてその前にディエゴ・オリヴェイラを置き、右に東慶悟、左にレアンドロ、中央にアダイウトンという布陣でスタートした。
確かに、長谷川監督の言うように「柏のバイタルエリア」、つまり1トップのオルンガの後ろからは危険な匂いを漂わせていた。右から、足元に収めたあとのテクニックが魅力のマテウス・サヴィオ、神出鬼没であふれるセンスがたまらない江坂任、スピードとクイックネスで相手を惑わす瀬川祐輔。さらにはボランチのヒシャルジソンや大谷秀和も顔を出してくる。クリスティアーノが欠場したものの、長谷川監督でなくとも十分な警戒が必要になってくる。
久々の公式戦、リモートマッチという独特の環境下も加わって、「柏との試合は堅くなることは覚悟していた」という長谷川監督の見立ては的中することになる。オルンガに抜け出されてGKが林彰洋と1対1の場面を作られるなど、ひやりとする場面もあった。長谷川監督の「前半は危ないシーンもあったが、ゼロで折り返したことは悪い展開ではない」は正直な感想だっただろう。
しかも、前半の「殴り合い」にも近いハードなタックルの応酬でディエゴ・オリヴェイラがわずか28分で交代を余儀なくされる誤算もあった。そこで後半からは少し配置を変えてくる。高萩+安部の組み合わせを高萩+東に、東のいた右サイドは田川に担当させ、ディエゴ・オリヴェイラのいた中盤のセンターを安部に託したのだ。
長谷川監督が明かしたところでは、理由は2つ。「安部はトップ下にして非常に持ち味が出た。前半は硬さもあってハードワークする相手に持ち味が出ませんでしたが、後半はアグレッシブになった」。初のリーグ先発となったルーキーの緊張を解くためだ。もう一つは「ディエゴがケガをして、トップ下にはどういうタイプが良いのか。今日は縦に急ぎ過ぎていたので、後半は(東)慶悟をボランチにしてから中盤のハマりが良くなった。レアンドロやアダイウトンも自由にプレーできるようになっていった」。前半は確かにそこここで過剰なバトルが発生したせいで、ボールが行ったり来たりになっていた。それを落ち着かせて、いわばボールを味方にするシフトチェンジを施したのだ。
そこへセットプレーのチャンスが巡ってきたのだから、ここが勝負の分かれ目だった。アダイウトンのロングドリブルをヒシャルジソンが引っ掛けて、この日2度めの警告となって退場。このFKをレアンドロが蹴り、壁に当たってCKになり、小川諒也のキックをファーで森重真人がヘッドで折り返し、渡辺剛が押し込んだ。62分のことだった。自由になったアダイウトンの自慢のロングドリブルでも、セットプレーでも、ボールが味方になったのだった。
では、次の試合は? 相手は川崎フロンターレである。またもや、独自のサッカーを貫く強敵だ。柏の攻撃力を絶妙の差配でうっちゃった長谷川監督の次の一手はいかに。
現地取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE