上写真=高卒1年目ながら出場機会を得ているMF荒木(写真◎Getty Images)
文◎北條 聡
切れ味抜群の次世代型兵器
狭い囲いの中でも決定的な仕事ができるかどうか。いまや攻撃陣の値打ちはそこに集約されるのかもしれない。つまりは小さなスペースを最大限に利用できる者たちだ。
時間がない。空間もない。そうした状況を少しも苦にしないタレントが鹿島アントラーズに加わった。荒木遼太郎――この春、高校を卒業したばかりの18歳が、いきなり特殊技能をフル活用して重要なキャストに躍り出た。
途中出場ながら、高卒新人では内田篤人以来の開幕デビュー。2列目の右サイドに送り込まれ、サンフレッチェ広島の分厚い防壁をモノともしない見事な立ち回りをみせた。アクションの基点が外であれ、内であれ、手際よくフィニッシュまで持っていく。とにかく仕事が速いのだ。
秘密は最初のタッチだろう。何しろ「止める→かわす→運ぶ」という一連の作業を一発で処理してしまう。もう寄せ手の付け入る隙もない。予備動作に細工を施した時点で、あらかた片がついている。そこにボールを手なづける繊細なタッチを重ね、やすやすと網をかいくぐるわけだ。
しかも、そこからギアを上げて、敵のゴールに向かう意欲が素晴らしい。守備者に休む暇を与えず、一気に攻め切ることの利得を知っているからか。急がば急げ。優先順位を間違えない。いかにも鹿島の伝統を受け継ぐ者にふさわしい。急いては事を仕損じる――とも言うけれど、筋金入りのプロ集団なら話は別。有能な人ほど仕事が速い。荒木もその一人だろう。
名門の東福岡高の出身。その切れ味鋭い仕掛けはかつて同じ道をたどり、常勝軍の一翼を担った本山雅志を彷彿とさせる。他方、偉大な先達とはまた違った個性や魅力にあふれているのも事実。同じ高卒新人の立場から身を起こし、海外組へと転じた安部裕葵にも似て、寄せ手をはがす作法が現代風にアレンジされた次世代型兵器だ。
この人をカギ穴に差し込めば、次々と扉も開きそうな気がしてくる。車のカギが開かなくなったときに使う『ロックピッカー』のようだ。こういう人こそ本当のキーパーソンと呼ぶんじゃなかろうか。密度の高い守備ブロックの中へ放り込まれた途端、存在感を失う「大駒モドキ」も少なくない。ザーゴ新監督が難局打開のジョーカーとして荒木を懐に抱えておきたくなるのも分かる。