上写真=優勝チームの選手に贈られるメダルとともに(写真◎佐藤博之)
優勝はより大きな勇気を与えられる
――J1リーグ優勝の感想を改めて聞かせてください。
朴一圭 うれしいですね、心から。今年、シーズン開始からみんなでタイトルを取るという目標を掲げてやってきました。自分たちにはその力があると信じてやってきましたし、そのためにチーム全員がトレーニングからハードワークしてきました。だからこそ、報われるべきだと考えていたし、優勝して本当によかったと思っています。優勝を決めた試合後にホッとしたと言ったのは、(FC東京戦で)退場してチームに迷惑をかけたのと同時に、そういう思いがあったからです。ここまでやってきたのに結果が出なかったら、「どうしていけばいいのか」と思ったかもしれません。それぐらい質の高い練習や強度の高い練習をやってきた自負がありました。
――これまでのキャリアの中でも、一番ハードな1年を過ごしたという思いがある?
朴一圭 そうですね。いまもそうですけど、最初のころは特に、精神面でもきつかったので。初めて臨むJ1のスピードに慣れないといけなかったし、それはプレー面でも判断スピードでも。ですから常に張りつめている状態で、みんなについていくのがやっとでした。
――昨年までプレーしていたJ3と比べて、大きな違いがあると感じたのはスピードですか。
朴一圭 ほかにもいろいろとありますけど、スピードは確かに違いました。自分はJ3で5年やらしてもらいましたけど、年月を過ごしていくうちに段々と慣れている部分があった。マンネリというと言葉は悪いですけど、自分のできることが分かり、刺激という面では少し物足りなさもありました。その中でチャンスをいただいて、J2ではなくてJ1でやると決心して臨んだと。ただ、自分が思っていた以上に、練習はきついし、体力面でも精神面でも疲れがなかなか抜けないという感覚になりました。最初は、これがJ1なのかと感じることが多かったですし、それと同時に、こういうものをクリアしていかなければJ1で活躍することはできないんだと実感していました。
――1年前、FC琉球から横浜F・マリノスに移籍する際に「最初は迷った」と以前のインタビューで話していました。それでも決断した。J1で優勝を経験するという未来は描けていましたか?
朴一圭 まったく描けていないですよね。当時は、ちょっとチャンスがあって、試合に絡んでいければ、というぐらいしか、まだ思えなかったです。まさか自分がJ1で優勝するチームで、正ゴールキーパーとしてピッチに立つことができるとは。さすがにイメージできなかった。そこはうれしい誤算ですよね(笑)
――1年前の自分に声をかけるとしたら、どんな言葉を?
朴一圭 本当に「毎日を全力で生きてくれ、プレーしてくれ、そうすればどこかで必ず見てくれる人がいるから」と伝えますね。その積み重ねが、優勝につながったとも思っているので。
――今年、5月に行なったインタビューの中で向上心の源泉としてかつてJFLから地域リーグにカテゴリーを下げてプレーした経験について話していました。「自分は藤枝MYFCを逃げた人間なんだ。ここで満足しちゃダメなんだ」と日々、自問自答していると。
朴一圭 はい、それは今も思っています。
――地域リーグのFC KOREAから再び藤枝に戻り、一つ一つ階段を上がって、昨年から今年にかけてはほかの選手では経験しえない、とても大きな階段をのぼったと思います。それでも過去の経験が変わらずモチベーションの源になっているのですか。
朴一圭 やっぱり1回、あそこで地域リーグに行って、厳しい環境に身を置くことになって、そこから這い上がらなければならないと思った過去は忘れられません。あの苦しい経験は消えないですよ。サッカーをすることに関して、環境面だけを考えれば、やはりカテゴリーが上のほうがいい。やるからには一番を目指したかったというのもありますが、プロとしてサッカーで生活していくには、上にいないとダメなんだと感じました。トップリーグから遠ざかざることになって、その思いが強くなったとも言えます。今だって、一瞬でも気を抜けば、すぐに転げ落ちてしまうと思う。その怖さを知っていますし、毎日が背水の陣じゃないですけど、そういう覚悟で過ごしてきました。あの経験は今も生きていますし、これからもその思いは変わらないと思います。
――J3で優勝した翌年にJ1で優勝して、いわば飛び級での連覇を成し遂げました。これほどインパクトのあるステップアップもなかなかないと思います。
朴一圭 自分がこうしてステップアップできたことで思うのは、自分がかつてそうだったように今、地域リーグやJFLでプレーしていてステップアップしたいと頑張っている選手たちに希望を与えられていたら、ということです。縁あってマリノスに来ましたが、それだけに留まらず、そこで試合に絡んでタイトルを取ることができた。それを見た人が「自分もできる」と、そういう勇気を持ってくれたら、と思いますね。
下のカテゴリーから上に行く選手は過去にも何人もいました。ただ、そこで試合に絡んでタイトルを取るというのは簡単ではないし、至難の業です。でも、だからこそ僕はタイトルを取りたかった。より大きなインパクトを与えられるし、大きな勇気を与えられると思ったから。ステップアップには、色んな巡り合わせや多少の運も必要かもしれません。でも、まずは自分がそう思ってやれるかどうか。僕はそう思ってやってきたので。自分は今後も、そういう存在として見られているということを意識しながら、道標というか、第一線でプレーできるんだよ、というところを見せていきたいと思います。