12月7日、横浜F・マリノスがFC東京を3-0で下してJ1優勝を成し遂げた。そのゴールマウスを守っていたのが今季、J3のFC琉球から加入した朴一圭だ。サッカーマガジンWebでは優勝後にインタビューを実施。常に「危機感しかない」と彼は言った。

前回東京に敗れた後に自分を追い込んだ

画像: チームとして戦ったGK陣。左からオビ・パウエル・オビンナ、中林洋次、杉本大地、朴、松永成立GKコーチ(写真◎J.LEAGUE)

チームとして戦ったGK陣。左からオビ・パウエル・オビンナ、中林洋次、杉本大地、朴、松永成立GKコーチ(写真◎J.LEAGUE)

――最終節を迎える段階で、2位のFC東京に勝ち点3ポイント差をつけ、得失点差も7点と大きくリードしていました。つまり4失点しない限り、優勝できるという状況にありましたが、守ればいいというのはGKにとって難しさもあったのではないですか。

朴一圭 友達や会う人会う人に「もう優勝だね」と言われました(苦笑)。でも自分は全然そう思っていなくて、むしろ危機感しかなかったです。正直、4失点はあり得ないスコアではないですから。

――今季アウェーで対戦した際には、マリノスが2-4で敗れていました(17節)。

朴一圭 そうです。実際に今日、僕らは3点取っていますが、逆に4点取られる状況もあり得るわけで、だから安心なんできなかったです。3点までは点を取られても優勝できるという状況は確かに難しい。人間ですから、こういう状況を踏まえてどこかで消極的になってしまう可能性がある。今のウチのサッカーで、消極的な姿勢になってしまうと、パスがつながらなくなるし、ロングボール主体になってしまいがちです。だから自分は、守備陣だけの話じゃなく、チーム全体として、そうなることが怖かった。トレーニングも含めて、誰かがそういう気持ちでピッチに立ってしまうとまずいなと思っていたんです。

――実際、そう感じる瞬間はあったのでしょうか。

朴一圭 FC東京との試合のピッチに立った時、チームにそんな感じはまったくありませんでした。相手が前からプレッシャーに来るのは分かっていましたけど、試合が始まると、それでもしっかりつなごうとしていましたし、みんなが冷静でした。その光景を見たときに「ああ、今日は大丈夫だな」と思えましたね。

――それはチームの成長とも言えますか。

朴一圭 もちろん、それもあると思いますけど、大きいのは監督(アンジェ・ポステコグルー)の存在ですよね。ボスが常々、言うわけです。「自分たちのサッカーをすることが大切だ。自分たちのサッカーをすれば絶対に結果はついてくる」と。「90分間ハードワークして、後ろからしっかりボールをつないで、見ている人も楽しいサッカーをすれば、絶対に結果が出てくる」ということを、FC東京戦の前だけじゃなくて、前節の川崎フロンターレ戦の前も同じように言っていました。勝てば首位になるとか、そういうことには一切触れないんですよ。何がまず大事なのかを言う。相手に対して自分たちのスタイルで勝ち切る、と。今日もそれは一緒で。常に変わらないから、僕らも変わらずに臨めた部分がありましたね。

――シーズン中も、その姿勢は一度もブレることがなかったと。

朴一圭 自分たちのスタイルで勝ち切ることに意味があるという考えは、常に変わらなかった。その中で成功事例がどんどん積み上がっていきました。そうなると僕らも自信になるし、不安も取り払われていく。優勝という結果は、こうした日々がつながって成し遂げられたと感じます。だから僕がFC東京戦の前に感じた不安はまったく余計なものだった(笑)。誰一人、消極的にはなっていなかったので。

――それが今年のマリノスの強さの一因ということですね。スタイルを貫き、結果を出して、そして自信を得ていくという好循環があったのだと改めて感じます

朴一圭 いいサイクルの中でチームが成長できたのは間違いないですね。

――いま、成功事例という話がありましたが、チームにとってポイントとなった試合はありますか。

朴一圭 チームで言うと、7月20日のヴィッセル神戸とのアウェーゲームですね。後半開始直後にチアゴ(・マルチンス)が退場してしまって、10人になった。前半に挙げたエジガル・ジュニオの得点で1-0で勝っている状況でしたけど、それでもしっかりつないで2点目を取って勝ち切った(マルコス・ジュニオールが追加点)。この試合の約1カ月前、6月15日の清水エスパルスとのアウェーゲームでは勝っている状況の中で、残り10分を切ったあたりでマルコスが退場したのですが、僕らは攻撃的にいって、相手のカウンターを2発浴びて逆転負けしてしまいました。そこで、ただ闇雲に攻撃的に戦うということではなくて、どうすべきかを学び、修正して、それが神戸戦でしっかり出せたと思います。その意味で大きかったと感じています。

――確かに、あの試合後はチームの雰囲気もすごく良いと感じられました。では、個人としてポイントになった試合はありますか。

朴一圭 7月6日の大分トリニータとの試合です。前の週にFC東京との首位防戦で負けて(●2-4)、それも自分が失点に直結するようなミスをして敗れていて、精神的にかなり追い込まれている状況でした。でもまだ、(飯倉)大樹くん(現ヴィッセル神戸)がケガから完全復帰していなくて、自分が使ってもらえる状況だった。ミスで負けて次の大分戦までの1週間、苦しい中でも何かを変えなきゃいけないと思いましたし、自分がやらなきゃいけないと強く言い聞かせていました。そして迎えた大分戦では、リスクを取ることを恐れずにプレーした。そこで、今の自分のスタイルが出てきたと思います。ビルドアップに加わることや攻撃的と言われる部分は昔からのスタイルでもありますが、よりリスクを取るようなプレーというか、例えば躊躇せずに前に出てクリアする判断などの積極性は、あの大分戦からはっきり意識できるようになりましたし、自信もつきました。実際、あの試合からだ思います、自分のプレーが注目されるようになっていったのは。

――FC東京に敗れたことをきっかけに、その後の1週間で自分の考え方を変えたと。

朴一圭 相当なプレッシャーを自分自身にかけました。周りの支えはもちろんありますが、今までだったら消極的になっていたかもしれないところで、自分で殻を破ったというのもあれですけど、変わることができたと思います。自分にやれることを無難にやっていた自分と決別できたというか。チームが求めること、監督が求めることをやっていかなければ、この世界ではやっぱり生きていけないんだなと、改めて知るきっかけにもなりました。そして、やるのは、最後は自分なんだということも。ターニングポイントでしたね。

――年齢で言えば、今年30歳です。アスリートとしてはベテランの域とも言えますが、この年齢でターニングポイントを迎えると思っていましたか。

朴一圭 確かに年齢は重ねていますけど、これまで自分自身の問題としてちゃんとサッカーをやれてこなかったと思うんですよ。言葉にするのは少し難しいんですが、サッカーとはどういうものなのかを、自分がしっかり理解せずにプレーしてきたんだなと知ることになりました。キックが少しうまいとか、身体能力の部分でシュートストップがいいとか、そういうことだけで何とかこの世界で生き残ってきたんだなと。それが去年ぐらいから、どうしたら伸びるのかを考えるようになってきて、去年、琉球で結果が出て、今年マリノスで考えてプレーするようになって、成長の幅がさらに広がったと感じます。だから、年齢はあまり感じていないんですよ。今まで、いかに考えてプレーするかとか、サッカーを考えて生活するとか、分かってはいるけど実際には身についていなかったので。一般的にはアスリートとしてはそろそろ落ちていく年齢にさしかかってきますが、もう何年かは伸びていけるんじゃないかなって期待があります。そう考えれば、このタイミングでターニングポイントがきたのも、当たり前かな。
 自分の能力をどうしたら最大限発揮できるかということを今、少しずつ知っている段階で、まだまだ新しいことを吸収しているから、もっと伸びるんじゃないかと。シゲさん(松永成立GKコーチ)との出会いも大きいですが、でも人任せにするのではなくて、常に自分にベクトルを向けて取り組んでいけば、まだまだ成長できると思っています。


This article is a sponsored article by
''.