「縦突破」「抜き切る」以外のアプローチも
OBたちの活躍を見ても、個人の技術面や戦術面を伸ばすことを疎かにしていないのは明らかだろう。今号(※サッカークリニック2021年4月号)のテーマである「ドリブルと個人戦術」については、どう捉えているのだろうか。
自主練習や初心者の練習を除けば、「ドリブルに特化した練習というのはまずやっていません」と中村監督は強調する。
「ただ、ドリブルの個人戦術という意味では、例えば右サイドでボールを持った選手が右足で持つのか、左足で持つのかという部分にはこだわりを促します。何も言わないと右サイドの右利きの選手は右足でボールを持ちたがりますが、それが本当に有効かどうかです。例えば、遠藤渓太選手(アイントラハト・ブラウンシュヴァイク)は右利きで、右サイドでプレーしますが、結構左足でボールを持ちます。だからその映像も見せながら、仕掛けるタイミングや角度を大事にさせています」(中村監督)
木村コーチの考え方はこうだ。
「ドリブルと言うと、子供たちは1対1で『抜く』イメージを持ちますよね。でも、抜くことは目的ではないんです。運ぶだけでいいときもありますし、シュートコースを少しつくるだけのドリブルでいいときもあります。ほとんど止まっていても、時間をつくれればそれでいいこともあります。子供たちには『そこはちょっと動かすだけで打てたんじゃないか?』という話をよくします。
あと、うちは前から厳しくボールを奪いに行く戦術を採用しているので、高い位置でボールを奪える状況がよく起こります。でも、そこで奪ったボールを持って縦に突破することしか考えられなくなってしまう子が多いんです。そのため、『横に持ち出してもいいんじゃない?』といった働きかけもするようにしています」
縦に仕掛けて抜くという選択肢については自然と身についている選手が多いので、そこに別の引き出しを増やしてあげるイメージで指導すると中村監督は言う。
「サイドバックの選手だったら、『(ボールを)隠す』ドリブルが大事なときも多いので、そこは丁寧に教えます。ただ、子供たちは練習になると『抜き切りたい』と思うんですよね。きれいに抜くことをどうしても目的にしてしまうのですが、半歩分だけ横にずれることができればシュートを打てるケースがよくあります。ですから、それも一つの個人戦術かなと思って指導しています」(中村監督)
ただし、ドリブルの技術、戦術に特化するのではなく、「組み合わせが大事」という考え方もある。木村コーチは「ボールを受ける動きについては、かなり口を酸っぱくして言っています」と話したあと、こうつけ加えた。「サッカーはタイミングのスポーツだと思っています。自分がどのスペースを使いたいのか、どこに動いたら、相手はどう動くのかを考えなければいけません。ただ、動き出しを強調し過ぎると無駄に動こうとしてしまうので、よく言うのは『逆』の意識。止まっているほうがいいときもあるんです。私がJクラブのジュニアユースにいたときにまったく走れないおじさんのコーチと試合をしましたが、勝てませんでした。『動くべきとき』と『止まるとき』を知っているかどうかの差があったからだと思います。その点については、3年間の積み上げでかなり変えられるという実感を得ています」
少子化のこの時代にあって、地域の人口が減っていない中学校という意味で考えると、鵠沼中は恵まれた環境にある。しかし、当初から持っていたアドバンテージはそのくらい。体制を徐々に整え、情熱を持った指導でチームの空気を変えたことで、成果を挙げている。
「最初に考えていた以上に選手たちが伸びるようになりました。『Jに落ちたら鵠沼中の部活でやろう』と言ってくれる選手も増えたと思います。それに何よりも、OBたちが私たちも驚くほどの活躍を見せてくれるようになりました」(中村監督)
鵠沼中の奮闘と躍進は、部活受難の時代と言われる中で、少なくないヒントを与えてくれている。
【プロフィール】
中村京平(藤沢市立鵠沼中学校監督)
1981年7月9日生まれ、神奈川県出身。国際武道大学を卒業後、中学校教員に。2012年に藤沢市立鵠沼中学校に赴任し、サッカー部の監督を務める。17年、19年、22年の全国中学校サッカー大会に出場し、17年と22年大会ではベスト16に進出
木村安秀(藤沢市立鵠沼中学校コーチ)
1984年5月16日生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスと川崎フロンターレの下部組織でプレーした。川崎Fのスクールで指導開始。2つの中学校で指導したあと、2015年に藤沢市立鵠沼中学校に赴任し、コーチを務める