「彼らにもカップ、掲げさせたってよ」
優勝セレモニーではキャプテンの中谷進之介を中心にみんなでカップを掲げて喜んで、そのあとに「貴史くん、次、真ん中、やってよ!」と促されていたのが宇佐美貴史。
「ヒガシくん(東口順昭)と秋くん(倉田)からでしょ!」
尊敬してやまない二人の先輩に譲ったのだが、セレモニーのあとに、遠路はるばる駆けつけてくれたガンバサポーターが陣取るゴール裏前に歩みを進めると、仲間が作った輪の中心でカップを掲げ、雄叫びをあげた。
「せっかくやから、サポーターのみんなも一緒に喜べたらいいなって」
サポーターが宇佐美のチャントを歌い始めると、選手も一緒になって大合唱。その後も食野亮太郎が、中谷進之介が、三浦弦太が、鈴木徳真が、ウェルトンが、イッサム・ジェバリが……と歓喜のカップリフトが続いていった。
その宴も終わりに近づいた頃、宇佐美がクラブの運営スタッフにこそっと囁く。
「彼らにもカップ、掲げさせたってよ」
その思いを受け取ったスタッフがカップを抱えてスタンドを駆け上がると、ゴール裏のサポーターもまたカップの重みに触れ、喜びを噛み締めた。
「こんなに遠くにまで足を運んでくれたんやから、彼らも近くでカップを見たいんちゃうかなって。ここにいる選手以上に、長い期間、この日を待ち望んでいた人もいるやろうし。彼らも大事な僕らの仲間。一緒に喜ぶべきでしょ」
幼少期には一人のサポーターとしてゴール裏で声を張り上げていた宇佐美らしい言葉だった。
「誰にも触らせない!」

タイトルを手にして選手たちに熱く語りかけるイェンス・ヴィッシング監督。絶対に手放さなかったものとは…?(写真◎GAMBA OSAKA)
帰国後、イェンス・ヴィッシング監督は改めて『タイトル』の喜びを口にした。
「本当に特別な瞬間でした。ガンバにとってということはもちろん、日本にとっても大きなことを成し遂げた決勝だったと思います。
ACL2準決勝のバンコク・ユナイテッド戦に勝利してからすぐに決勝戦があったわけではなく、その間、国内のリーグ戦においても、ヴィッセル神戸戦、名古屋グランパス戦、サンフレッチェ広島戦という重要な試合がありました。それを戦った上で決勝に臨むのはスケジュールとしても、気持ちの部分でも難しかったです。
ですが、とにかく目の前の試合に集中することを意識してチームづくりを行い、そこをしっかり戦い抜いた上で向かった決勝戦でした。
そうした難しい状況でも、選手たちは本当にたくましく、勇敢な気持ちを持ってアル・ナスルに向かってくれました。試合前の1週間も本当にいい準備ができました。その上で、みんなでこの素晴らしい成果を出せたことをうれしく、誇りに思います。最高の瞬間でした」
『監督』として手にした初めてのタイトルでもある。その喜びは、試合が終わってからずっと、その腕にウイニングボールを抱え続けていた姿からも見て取れた。
しかも、試合を終えて、ホテルに戻る道中も、食事会場でも、翌朝、空港に向かうバスの中でも手放さないのである。いつも行動を共にしているハリープファル・アシスタントコーチが隙を見てイタズラを仕掛けても「ダメだ! これは誰にも触らせない!」と死守。
バスを降りて、手荷物検査場に向かう間もまだその手にはボールが……。さすがに最後は空気を抜いて、大事そうにバックにしまったけれど。
中谷進之介の「終わりなき旅」
ACL2 2025/26のチャンピオンという栄誉をつかみ、その足でホーム、パナソニックスタジアム吹田に戻ったG大阪の面々を待ち受けていたのは、喜びをともに分かち合おうと詰めかけた約6500人のファン・サポーターだった。
「優勝、おめでとうございます!」
スタンドからのお祝いメッセージを受け、イェンス・ヴィッシング監督の挨拶に続いて、キャプテンの中谷進之介がマイクの前に立つ。
「ただいま戻りました! 平日にも関わらずこんなにもたくさんの方に集まっていただきありがとうございます」
そう切り出すと、真っ直ぐに想いを伝えた。
「11年ぶりに10個目のタイトルを獲ることができました。お待たせしました! 本当に僕ら選手もそうですが、ACL2は移動が大変で、ここにいる裏方スタッフたちが本当に頑張ってくれました。
いったん、ACL2という旅は終わります。ただ、優勝したことによって来シーズンはACLエリートのプレーオフから戦うことが決まっています。僕らの終わりなき旅はこれからも続きます! これから強いガンバを取り戻せるよう、この優勝を機に頑張りたいと思いますので、今日はいっぱい飲ませてください。ありがとうー!(一部抜粋)」
最後は両手でガッツポーズを作って声を張りあげた姿はパナスタで、あるいはG大阪の公式YouTubeで確認した方も多いことだろう。
裏話はここから。
「僕らの終わりなき旅はこれからも続きます!」と言ったあと、背後に座る三浦弦太、宇佐美貴史ら選手がややどよめき、中谷が『してやったり』の表情を浮かべたことにはお気づきいただけただろうか。
実はこの台詞、中谷が優勝直後の興奮の中で「言おうと思ってたのに忘れちゃった!!」と後悔を残していたワード。試合後の取材エリアで明かしていた。
「さっき、公式の動画を撮ったときに、Mr.Childrenさんの曲にちなんで『僕たちのアジアでの戦いを終わりなき旅にしたい』って言おうと思ってたのに、忘れちゃった! あー、失敗した! ミスチルさん、大好きだし、僕らにぴったりのフレーズだと思ったのに、忘れた! 悔しい! またどっかで言う!!」
おそらくは、それを知っている仲間からの「やったな!」のどよめきであり、温めに温めて届けられたキャプテンからのメッセージだった。
