鹿島アントラーズでユースフィジカルアドバイザー兼ヘッドオブコーチングを務める里内猛氏。ヴァンフォーレ甲府でフィットネス・ダイレクターを務めながら2012年より自身がトレーニング用に改良したラダー「タニラダー」を開発し、スポーツにおける正しい体の動かし方を広める活動をする谷真一郎氏。30年を超える仲の2人から見た、コロナ禍を経た今のアカデミー年代とは。

プロの指導経験を持つ2人が感じる、アカデミー年代のポテンシャル

近年のさまざまな変化がありながら、2人ともアカデミー年代に対して大いなるポテンシャルを感じている。そこには、“知ること”だけで変わる目に見える変化や成長を、指導現場で体感してきたからこその理由があった。

谷 やはり今の日本のスポーツ選手たちは伸びしろ満載だと思っています。日本の学校教育の不思議なところで、走り方とか動き方という指導をやらないので、誰も教わることなくみんなが我流でスポーツをしている。たまたまその理論的なところにはまっている子が速かったりしているのが現状です。体を動かす技術があるので、それを身に付ければスピードが上がるよという話をよくしていますね。

里内 アントラーズアカデミーの子どもたちと接していて、やっぱり走りのところで体の骨格が大きくなってくると、かなり推進力が出てきたとか、単純にスピードが出たり、筋力が伴ってきてすべてが発達していったりすることがよく見られます。谷さんが改良したラダー「タニラダー」を使わせてもらってますが、その果たす効果も大きいと感じています。動作の無駄なところや緩慢さが、すごく速くスムーズになることが実際にピッチ上で見られています。大人にももちろん必要でしょうが、育成年代から日々のトレーニングで、週1回2回と、必ずエクササイズのセッションを入れていけば、その伸びしろは、大人と違ってものすごいスピードで成長していくんです。

画像: 里内氏は鹿島アントラーズアカデミーのトレーニングにも「タニラダー」を導入している©️KASHIMA ANTLERS

里内氏は鹿島アントラーズアカデミーのトレーニングにも「タニラダー」を導入している©️KASHIMA ANTLERS

谷 僕が今のスポーツにおける正しい体の動かし方を広める活動を始める前の段階では、ラダートレーニングの普及の仕方が、とにかく速くステップをするトレーニングになってしまっていたんです。実際に速くターンをしたり、速く走るための動きからはちょっとかけ離れた状態でトレーニングしているのを見て、それだとやらないほうがいいなというのがあった。1番最初のきっかけは、YouTubeで動画をアップしたことだったんですが、まだまだ間違った方法でやっている子どもたちを結構目にします。そのスタンダードを変えていきたいというのがあります。間違ったトレーニングはやればやるほどうまくいかないんです。よくサッカー指導者で、試合のときに「おい! 何やっているんだ!」「抜かれるな!」「もっと早く戻れ!」とかいう言葉をよく聞きますが、うまくいかないのは、必ず理由があるんです。その理由を指導者が見て、トレーニングで改善してできるようにしていく。その過程を大事にしながらやっています。

里内 谷さんはカラダの動きに特化したところがありますが、僕らの場合はチームなのでもう少しフラットに見ているかもしれません。ただ、いろいろな足の運びのなかで、尻餅をつくことが多いんです。足を滑らせる子もいれば、いわゆる姿勢の問題であったりもします。そんなときに少し矯正するためにラダーで骨盤の後傾を修正したり、強く地面を踏んでの反発を利用するなどの動作から、動きのスムーズさや巧さにつなげていくためにラダーを使用したりしていますね。

谷 ゲームからの逆算でトレーニングをしていくと効率的だし、選手がわかりやすいんですよね。この足の踏み方や踏み換えができれば、相手にうまくついていけるとか、試合中のある状況をイメージできるようにきちんと伝える。ただのステップのトレーニングだと試合につながっていきません。このステップのトレーニングは、どんな意味があるのか。そこを理解してやってもらうように意識して取り組んでいます。

里内 ただ、それだけ具体的に落とし込んでもうまくいかないこともあるわけです。サッカーをやる上ではいろいろな環境がありますからね。攻撃、守備、ボールを保持している、保持していない。もしくは数的有利や数的不利な状況もあるでしょう。状況によって1万通りを超えるやり方があるのがサッカーです。それに対して、ちょっとしたコミュニケーション方法を持っておけば、そこまで難しくしなくてもできることがあるんです。いたってシンプルなことではないかなと思いますけどね。

谷 最近は戦術の比重が高くなってきました。そのなかで、日本代表の森保一監督が1対1のところへ比重を戻してくれた感じがあります。その流れを大事にしていければというところも感じているところです。まずは基本的なところができないと戦術もできないでしょう。アカデミー年代では特にそこが重要になるなと感じています。

里内 まさにそういうことです。例えば、レアル・マドリード、バルセロナ、マンチェスター・シティの選手ではないですから、そのときどきに必要なことを落とし込んでいかないといけません。先日もジーコにアントラーズアカデミーの監督・コーチに対して研修をやってもらう機会がありました。そのとき言っていましたが、「急がば回れ」と。じっくりじっくりだと。「世界に16歳、17歳で活躍する選手も出てきているが、それ以上にいなくなった選手たちも多くいるはずだ。そのへんは注意するように」という言葉をもらいました。それぞれの現場にあったことを落とし込むことが大切ですね。

画像: 谷氏もアカデミー年代のトレーニングを行ない、基礎能力の重要性を認識する

谷氏もアカデミー年代のトレーニングを行ない、基礎能力の重要性を認識する


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