連載『サッカー世界遺産』では後世に残すべきチームや人、試合を取り上げる。今回、世界遺産登録するのは、2005-08のASローマだ。革新的なスタイルを採用し、2000年代中期にカルチョを席巻したクラブについて綴る。

より速く、より多く

 無論、ゼロトップは異端のタンデムだけで成立していたわけではない。受け手がペロッタひとりなら、結果は知れている。
 敵を欺く破格のダイナミズムを生み出すには、タンデムの脇を固める両翼の機動力が不可欠。それを期待されたのが、右のタッデイと左のマンシーニだ。

 縦に仕掛け、クロスを送る以上に、最終ラインの裏へ斜めに走り込み、一気に相手ゴールへ迫る。フィニッシュに直結するシンプルな動きが求められていた。

 トッティにくさび(のパス)が入ると、攻めが一気に加速する。ワンタッチプレーの連続。そこで先手を取り、敵を出し抜く。
 2列目の面々には、トッティの超高速プレーについていくだけの走力、スピードと運動量が必要だった。いかに速く、いかに多くの人をゴール前へ送り込めるか。
 難しい技術やアイディアが求められたのはトッティだけ。質より量。そういうサッカーだ。

 左足でもシュートを狙えるタッデイを敢えて右へ回し、右利きのマンシーニを左サイドに据えたのもカットインからのフィニッシュを優先していたから。結果、マンシーニのゴールは2ケタを数え、タッデイも2ケタに近いゴールを積み上げることなった。

 各々の仕事や役割が整理されているぶん、ゼロトップの仕組みが分かってしまえば、意外性に乏しい。効率最優先の機械的な印象すらあったほどだ。
 それでもローマの攻めを防ぐのは簡単ではない。トッティを軸とするコンビネーションのスピードについていけないからだ。

 こうして、大胆な賭けに勝ったスパレッティの1年目は、最終的に2位でフィニッシュ。あれだけ苦しんだ前半戦の試行錯誤がウソのような結末だった(カルチョスキャンダルの影響で上位チームの勝ち点が剥奪され、最終順位は2位となった)。


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