■ロシア・ワールドカップ
グループステージ1節 H組
コロンビア 1-2 日本
得点:(コ)キンテーロ
(日)香川、大迫
先制のPKにつながるシュートを放つ大迫。決勝点をあげ、さらに守備でも貢献。文句なしのMOMだった(写真◎福地和男/JMPA)
屈辱の敗戦から4年――。前回の大会の最後に1-4と大敗した相手・コロンビアと今大会の初戦で戦うのは、何とも因縁めいていた。同じチームと2大会連続でグループステージで対戦するケースなど、そうはない。勝てば、リベンジ成功。ここに至るまでの紆余曲折はさておき、「ワールドカップの借りはワールドカップでしか返せない」(長友)という思いを果たすことになる。
反面、負ければ最悪。絶好のリベンジ機会を失うのみならず、前回負った深い傷を、さらにえぐられるような経験となる。この4年の停滞、日本サッカーの後退さえ感じさせることにもなりかねなかった。そして――日本は、西野朗監督自身が「最重要」と位置付けていた大一番に勝った。戦前から繰り返し指揮官が話していた通り、攻めの『姿勢』を貫いた末に。
開始早々の得点と数的優位
試合が動いたのは開始3分。昌子源がヘディングでクリアしたボールを香川真司が相手の最終ラインの裏に送る。そこへ大迫勇也が走り込み、ダビンソン・サンチェスと競り合いながらもシュートを放った。いったんGKダビド・オスピナに弾かれるが、フリーランニングでゴール前に詰めていた香川が反応。力強く振りぬくと、エリア内に引いていたMFカルロス・サンチェスが思わず右腕を伸ばした。
香川のシュートは相手の中盤の守備の要であるC・サンチェスを一発退場にいざない、PKを得ることになった。香川自らキッカーを務め、中央右に冷静に蹴りこんで日本が先制に成功した。
「サコ(大迫)があれだけ粘ってくれて、まあ直感じゃないですけど、キーパーが弾くんじゃないかなと。いいところに(ボールが)こぼれてきて。あれ(最初のシュート)で決められればよかったですけど、(相手に)退場者が出て、そのあとPKをしっかり決められたんで。相手が一人少なくなったし、チームにとってはよかったんじゃないかな。(PKは)自分で取ったので、蹴る気満々でした」(香川)
しかし、早すぎる得点と優位な状況が、微妙にリズムを狂わせていく。「数的優位は必ずしも優位ではない。得点してからコロンビアにポジショニングで優位を与えて、流れが優位な形で進めることができなかった前半がありました」と西野朗監督も振り返ったように、次第に相手のリズムになってしまう。37分、長友がクリアしきれなかったボールをラダメル・ファルカオと競り合うことになった長谷部誠がファウルを犯し、ゴール前でFKを与えてしまった。
ベンチスタートとなったハメス・ロドリゲスに代わってキッカーを務めたフアン・キンテーロは、グラウンダーのキックを選択。日本の選手たちが作った壁の下を抜けて、ボールをネットに吸い込まれた。自身のやや右にポジションを取っていた川島永嗣が必死で手を伸ばしたが、ボールは無常にもゴールを割る。
長友クリアが小さかったこと、長谷部がファウルを取られたこと、ミーティングで警戒していながらFKが壁の下を抜けたこと。そして壁を抜けると想定していなかった川島のポジショニング。1-0で折り返したかった日本にとっては、悔やまれる失点となった。
ハーフタイムに施した修正
前半の終了間際に同点とされて迎えたハーフタイム。それでも指揮官は冷静だった。選手たちに11対10の数的優位ではなく、ポジショニングで優位性を得るように求めた。そして後半、ポジションの修正とこの一戦にかけてきた指揮官の用兵が当たる。香川、乾貴士、柴崎岳によって日本のポゼッションが高まり、安定する。ここが勝負の一つのポイントになった。
「中盤での戦いに優位に立てるか立てないかというところで、柴咲、香川、乾というボールをある程度うまく、個人でもグループでも扱える選手が必要であると思いました。リアクションだけにならず、ディフェンスディフェンスで試合を進めていくならまた違うキャスティングなったと思いますが。中盤のイニシアチブを取りたいというところがあったので」
実際、暑さで後半相手の走力が落ちたこともあるが、日本のポゼッションが消耗を早めた面がある。ボールを走らせることで相手の体力を奪っていった。ショートカウンターだけではない、日本の特長を生かしたいという西野監督の考えが、はまったと言える。
ゲームをコントロールし始めた日本が勝ち越し点を奪ったのは、73分だった。香川に代わって交代出場していた本田圭佑が蹴ったCKを、ムリージョ、ラダメル・ファルカオの2人と競り合いながら、大迫がヘッドで決めた。
「圭佑さん本当に練習からいいボールをくれていて、練習でもあの形のゴールが多かったので、感謝しかないです。僕のところにボールが落ちてきたんで」
まさに値千金。4年前のブラジルで無得点に終わった大迫がドイツでもまれてきた強さを示して、ゴールをこじ開けた。さらに得点の直後にも守備でビッグプレーを見せる。78分、左サイドからのパスを受けたハメス・ロドリゲスがフリーで放ったシュートを身を投げ出してブロック。これまた、値千金のプレー。マン・オブ・ザ・マッチに選ばれるのも当然だった。
セネガル戦へ気の緩みはなし
その後は4年前も後半途中から登場し、自由にプレーされたハメスをグループで封じ込めていく。そしてポゼッションしながら時計の針を進め、ついに勝利を告げるホイッスルを聞いた。
指揮官も選手たちも、初戦の重要性を繰り返し口にしていたが、まさしくその一番重要なゲームで会心の勝利を収めた。運が味方したこともあるが、その勝ち運を引き寄せたのも、日本のアグレッシブな戦いぶりだろう。
むろん、これでグループステージ突破が決まったわけではない。何より西野朗監督は、アトランタ五輪で2勝1敗という成績ながら決勝トーナメントに進出できなかった過去がある。
「初戦をこういう形で終えることができたのは大きなアドバンテージであると考えますけど、2戦目、3戦目も厳しい相手ですし、しっかりと対応したいと思います」
西野監督に気の緩みはなかった。第2戦の相手は初戦でポーランドに勝ち切ったセネガル。日本が勝ち点を得れば、グループステージ突破に大きく前進する。
文◎佐藤 景 写真◎福地和男(サッカーマガジン/JMPA)