5月31日、東京都内で開かれた会見で、西野朗監督によりロシアワールドカップを戦う日本代表メンバー23人が発表された。前日のガーナ戦(●0-2)に臨んだ26人から、三竿健斗(鹿島)、井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ=スペイン)、浅野拓磨(シュツットガルト=ドイツ)の3選手が落選となった。選ばれた選手たちは、6月2日に日本を発ち、オーストリアとスイスでの合宿を経てロシアに入り、本大会初戦となる6月19日のコロンビア戦を迎える。
※ガーナ戦では途中出場で攻撃を司った柴崎。ロシアで戦う23人のメンバーにも名を連ねる。 写真◎小山真司/BBM
“アイデア”をチームのアクセントに
「最後のところでビジョンの共有が足りない。ファイナルサード(相手ゴール前のエリア)まで行けても、得点を取れていない理由は、そこから単調なクロスになっていたり、(相手に)読まれているようなプレーばかりしていたこと」と、5月30日のガーナ戦(●0-2)で前半戦のみ出場した本田は、ゴールを奪えないことについての課題を指摘した。
シュート数は14本対8本、ボール支配率は58.1パーセント対41.9パーセント。スタッツからは、日本は優勢だったとみえるかもしれないが、ゴールを奪えないことには、勝利はない。過去5大会の本大会グループステージ3試合を振り返ってみても、このラウンドで敗退した1998年は1点、2006年と14年は2点、決勝トーナメントへ勝ち上がった02年は5点、10年は4点を挙げている。つまり、1試合平均1得点以上を奪うことが、今大会でのグループステージ突破や、さらにはその先に待つ未到の領域へ進むための至上命令と言えるだろう。
そんな攻撃の司令塔と目されるのが、柴崎岳だ。ガーナ戦の後半も、彼の途中出場により一筋の光がさしたようにみえた。
「前半を(ベンチで)見ていて、相手の空いているところとか、こうしたらいいんじゃないかな、と思うことを頭に入れながら、ポジショニングとかを意識して(試合に)入った。負けていたので、なんとか攻撃のアイデアを出して、ゴールに迫りたいと考えていた」
59分に山口蛍と代わってボランチに入った柴崎は、それまで相手に易々とはね返され続けていた単調な攻撃に、豊富なアイデアと意表を突くプレーでアクセントを加えた。「左足のパスがうまくできなかったところもあったし、ミスしたところは他の選択肢もあったのかな、と思う。プレーの精度をもっと高めていかなければ」と、反省点を口にするも、1トップの武藤嘉紀や、2列目の香川真司との連係から、ゴールチャンスを創造した。
鹿島アントラーズ、テネリフェ、ヘタフェ(ともにスペイン)。さらには、これまで出場した日本代表の試合をみても、今回のロシアワールドカップを前に採用した3-4-2-1システムは、柴崎にとって馴染みがない。それでも、「めぐってきたチャンスを決めなければいけないというのは大前提としてあるけれど、いかにもっと決定機に近づけていくか、良い状態でシュートを撃つか。クロスの位置が良かったり、ワイドの選手がファーサイドに入ってきて、そこから(シュートを)撃つか、(クロスを)折り返したときは、非常に近い位置でシュートを撃てているのかなと思う。やはり、クロスをもうちょっとゴールに近い位置から上げたいし、アーリークロスを相手の間(スペース)に落としたいな、というのは考えている」と、すでに解決への糸口をみいだしている。
思い出されるのは、2015年のAFCアジアカップ準々決勝UAE戦。結果的にはPK戦の末に敗れたものの、1点ビハインドの状況で、逃げ切りを図るUAEの堅牢に穴をあけたのは、途中から入った柴崎だった。本田とのパス交換からゴールへの道筋を示したその慧眼は、3年のときを経て迎えるロシアの舞台でも、日本代表の大きな武器となるだろう。しかも、その才能は鹿島でのリーグ優勝やクラブワールドカップ準優勝、スペインでの厳しい競争のなかで、さらに磨かれてきた。
「誰しもがスタートから(試合に)出たいと思っているし、もちろん僕もそう。結果とか、現実に起こっていることでしか評価されないと思うので、どんな形でもいいので、得点を演出したいし、自分でも決めていきたい。もっともっと攻撃的にプレーしたいな、と思っています。今日の試合(ガーナ戦)は結果的に負けたけれど、内容はまた別物として、しっかり分析して、ポジティブな変化をまた次の試合で見せたい」
心は熱く、頭脳は冷静に――。ハビエル・アギーレの元で2014年にサムライブルーに初招集され、西野体制初陣でもジョーカーとして試合の大勢に変化を加えた柴崎。自身初のワールドカップでは、どのような状況で出番を得るか、今は未知数だが、ポーカーフェイスに秘められたその才能が、日本のゴールを、そして勝利を生むためのカギを握るはずだ。
取材◎小林康幸