キャプテンを続けるうちに、中心選手としての意識が高まった
大地がキャプテンになることが決まったあと、大地を中心に、部のルールを見直した。例えば、それまでいい加減になっていた学校内でのスマートフォン禁止のルールについて、大地が「ちゃんとやろう」と徹底させた。キャプテンがみんなのスマホを集め、始業時の8時15分に福重のところに持っていくルールは、部の伝統として今も続いている。また、オフの月曜日に全員が集まり、1時間ほど自主的に練習するようになった。これも、大地の発案。ウオーミングアップでのブラジル体操を廃止し、小さいボールを使ったフリードリブルを行うようにもなった。
キャプテンとしての仕事を続けるうちに、チームの中心選手としての意識が高まった。メンタルの部分が変わっていった。
「3年生になってからは、『ラスト1年だから』と言って、ほぼすべてをサッカーに捧げていました。高校サッカーのキャプテンと聞くと、チームに声をかけて支える精神的なリーダーが思い浮かびますが、大地の場合は、支えるというよりは、一番前で引っ張ってくれるタイプでした」(東山高校時代のチームメイト・中村太郎)
大地自身も変化を感じ、3年生のときの春先には、こんな言葉を残している。
「まだ、試合中に文句を言ってしまうのはダメですけど、我慢して一発のチャンスで決め切るのとかは、(高校に)入った当初はなかったことです。今年は自分が試合を決めたいと考えています。精神的に我慢することをちょっとずつ覚えているのかなと思います。
先生は、大事な試合のときや自分たちが沈んでいるときに、すごく声を出してくれます。普段の練習試合ではすごく怒るけど、大事なときにチームを支えてくれているので、こっちもその期待に応えなければいけないと常に思っています。今年は先生を選手権に連れていって、東山を本当に有名にしたいです」
自身の内面的変化とともに、大地への注目度がどんどん増していた。2年生のときにJクラブの練習に初めて参加したことや、プレミアリーグ参入戦で活躍したことで、大地に対する他チームの警戒心も強まっていた。
「このチームが全国大会に行くには、自分がどれだけできるかが大事になると思います。去年の選手権は、マークが厳しくて、間が消されて、ボールに触る時間が少なくて、何もできずに終わる試合が多かったです。今年はいろいろな人に知られてきて、2月、3月の遠征ではマンマークが多かった。でも、そういうことを大きな大会の前に経験できているのが、去年との違いです。先生には、『そこで工夫や我慢をしろ』と言われています。もっと成長できたらいいなと思います」(大地)
ゴールを奪えない時期があったが、春休みの遠征で調子を上げ、迎えた京都橘高校とのプレミアリーグ開幕戦では、1-0の勝利を収めた。大地が前半に奪ったゴールが決勝点。ところが、試合後の大地に笑顔はなかった。
「開幕戦で勝てたのはチームとしてはいいことですけど、個人的にはまったくうれしくありません。勝ったうれしさ以上に、(内容が)よくなかったという気持ちの方が強いです。
京都のライバルチームに押し込まれて、自分たちが攻撃する時間が少なかったです。初戦の硬さとか、いつもとまったく違うのはわかるけど、みんな萎縮していました。そういうプレーが、僕らがいつも大会で力を出し切れない部分に出てくるんだと思います。これくらいのプレーしかできなかったら、プレミアリーグでは戦っていけません。もっと強くならないといけません」(大地)
実際に、開幕戦以降は、勝てない時期が何カ月も続いた。次に勝ち点3を獲得したのは11月。最下位に低迷し、1シーズンでの降格が決まった。