上写真=スペイン戦は出場停止だった冨安健洋。1次ラウンドのメキシコ戦もケガで出場しておらず、3位決定戦に全てを注ぐ!(写真◎JMPA)
文◎川端暁彦
次は簡単にはいかない(冨安)
「僕はこのチームが好きだし、良いチームだと思うので、シンプルにこのチームで勝って終わりたい。そういう気持ちだけですね」
DF冨安健洋は静かながら思いのこもった口調で、そう語っていた。6日に行なわれるメキシコとのブロンズメダルマッチは、年代別日本代表としても、オーバーエイジという枠で選手が加わったオリンピックチームにとっても最後の試合である。そこで勝ちたくない選手などいないはずもない。
ただ、簡単な試合にはならないだろう。
もちろんメキシコが強敵だというのは第一にある。グループステージで当たったときは開始早々に久保建英の一撃が入ったことでゲームの流れが日本に大きく傾いた。だが、冨安も「次の試合はそう簡単にいかないかもしれない」と語るとおりだ。
それ以上に厳しいのはコンディションだ。冨安が「気持ちもフィジカル面も結構限界に来ている」と率直に語ったように、心身両面で状態は最悪に近い。
まずメンタル面は、準決勝のスペイン戦で死力を尽くしたゆえの代償だ。
「試合後は呆然としている選手のほうが多かったし、金メダルに向けてそれほど気持ちを強く持っていたからで、そうなることは仕方ないことだと思う」(冨安)
試合後のロッカールームではチームスタッフが「次の試合勝つぞ! 切り替えろ!」と熱く声を掛けていたとも聞くが、本当に金メダルを狙っていたからこそ、本気でスペインを倒すつもりだったからこそ、終わったあとの心理的なダメージは大きかったに違いない。すぐに切り替えられるはずはないが、冨安は「メキシコ戦までに切り替えられればいいと思っている」というラインの引き方をしている。
もう一つ厳しいのはフィジカル面だ。こちらは中2日の連戦が酷暑とともに続く中で、2試合連続して延長までの120分ゲームをこなした代償だ。準決勝終了後、MF堂安律は「体はボロボロでした」と正直に話してくれたが、記者席から見ている感覚としても、選手たちの消耗は大きかった。出し切ったゲームのあとで、フィジカル的に戦える状態まで持って行けるかどうかも大きな問題だ。
心と体はリンクしているものなので、これは切り離しても考えられない。分かりやすい話で言えば、準決勝の敗戦での悔しさの余り、夜に眠れなかったら、それだけフィジカル面での回復も遅くなってしまうもの。元より肉体的には限界が近づいている中で、これを乗り越えられるかどうかだ。
ただ、森保一監督が「相手も同じ」と強調していたように、メキシコもブラジルと120分の死闘を戦い抜き、ボロボロになったことは想像に難くない。互いに出し切った試合から中2日で迎えるブロンズメダルマッチ。「プロとしての器が問われる」と言ったのは堂安で、「あとは気持ちというか、気持ちしかないと思う」と言ったのは冨安だった。
このチームで迎える最後の試合、心身が完璧に整った選手が11人そろうことは恐らくないだろう。その中でも全員で戦って最後に残ったメダルを獲得できるかどうか。勝って笑って終わるための、最後の戦いが始まる。
著者プロフィール◎かわばた・あきひこ/2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画、のちに編集長を務めた。2013年8月をもって野に下る。著書『2050年W杯優勝プラン』(ソルメディア)ほか