上写真=PK戦勝利が決まった瞬間、谷晃生のもとに仲間が駆け寄った(写真◎Getty Images)
文◎林 遼平
久保建英に続き、守護神・谷晃生が輝く
PK戦を前に円陣を組む選手たち。一人ひとりが声をかけ、チームを鼓舞する姿を見て、かつての記憶が蘇ってきた。
フラッシュバックしたのは2000年のシドニー五輪だ。当時のチームは歴代最強と呼ばれるほどの選手たちをそろえ、大会前から金メダルへの期待が高まっていた。奇しくも今回と同じく初戦で南アフリカと対戦。準々決勝では難敵・アメリカと相対してPK戦までもつれた。ただ、最終的にチームの柱だった中田英寿がPKを外し、メダルを目指した日本の戦いは志半ばで幕を閉じた。
果たして、今回のニュージーランド戦。日本は同じ結末を繰り返さなかった。ヒーローになったのは守護神の谷晃生。プレッシャーのかかるPK戦で2本目をストップして見せると、3本目はキックと同方向に飛び相手のミスを誘った。最後は吉田麻也が沈めて勝負あり。勝敗が決した瞬間、選手たちが一目散に駆け出したのは谷の下だった。
グループリーグは久保建英がヒーローになった。3試合連続ゴールは全て先制点。チームを勝利に導く上で大事なゴールを奪えたことが、何よりチームを勢いづけていた。
それでも一発勝負となる決勝トーナメントでは、さらなるヒーローの登場が待たれていた。久保も全能ではない。全ての試合で活躍を期待したいところだが、そうはいかない試合だってある。だからこそ、チーム一丸で戦う中で新たなヒーローの出現が必要不可欠だった。
試合前日、田中碧が語った言葉が印象に残っている。
「最終的に勝てば何でもいいと思っている。それがPKだろうが、大差で勝とうが、勝って先に進むことが大事。ここからは僕自身もそうですし、チーム全体としての力がすごく問われると思う。スタメンで出ている選手でも途中交代で入ってくる選手でも、いろいろなヒーローが生まれれば、より上のステージにいけるのではないかと感じている」
この言葉通り、新たなヒーローが生まれたからこそ次なる道は開かれた。そうした状況は、今後にもつなげていかなければならない。
今回は守備陣がチームを救った。では、次は。攻撃陣を牽引する堂安律は次なる試合を見据えて思いを言葉に込めた。
「今日はGKの谷とDF陣に助けられたので、準決勝、決勝はオフェンス陣がディフェンス陣を助けられるような活躍をしたいと思っています」
ベスト8で散ったシドニー五輪の記録は越えた。次は準決勝で敗れたロンドン五輪の記録を塗り替えにいく。
五輪で初の決勝を目指すチームにおいて、準決勝では誰がヒーローになるのか。「次は俺だ」と気概を見せる選手が誰か、今から楽しみにしたい。
著者プロフィール◎はやし・りょうへい/埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。その後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている