上写真=酒井宏樹のゴールにつながるシュートを放った上田綺世。笑顔で仲間の得点を祝福した(写真◎Getty Images)
文◎林 遼平 写真◎JMPA
大地くんのパフォーマンスに刺激をもらっていた
ファーストシュートから貪欲だった。20分、中山雄太のパスを受けた上田綺世は強引にシュートへ持ち込んだ。残念ながらシュートはゴール上へと外れていったが、その姿勢にエースストライカーの気概を感じた。
「ああいう前向きなプレー、貪欲なプレーが現に流れを変えたり、ああいうシュートを見せることでラインが下がったりすることもある。やはり僕の仕事は点を取ることだし、動き出しからゴールに迫ることでもある。ただ、プラスアルファというか、それを伏線として、1列下のタケ(久保建英)や(堂安)律などテクニックの長けている選手が、スペースを得て、そこで輝けるのも僕の一つの武器。それを体現するためには僕がどん欲に狙い続ける必要があると思っている」
メンバー発表前の負傷により東京五輪に参加できるかもわからなかった。ただ、ケガの状況を把握した上で、森保一監督は上田を招集。選ばれたからには自分がやることは決まっていた。
「自分が選ばられたことには理由があって、自分が試合に出るのも理由や求められることに責任がある。それを自分なりに理解して表現できればと思います」
チームに合流するためリハビリメニューをこなしながら、少しずつコンディション調整に努めていた。大会が始まってからは途中出場で順調な回復をアピール。そして迎えたフランス戦。初めての先発がやってきた。
「ここまで(林)大地くんがすごくいいパフォーマンスをしていましたし、すごく刺激をもらっていた。その2連勝を結果としてつなげたいという思いがありました」
ピッチ上にはゴールへと向かう上田の姿があった。ボールを受けてはまずゴールを目指す。その姿勢が2つのゴールにつながるシュートを生んだ。
「チームにはゴールに貪欲な選手も多い。それこそ(酒井)宏樹くんもサイドバックからあそこまで上がってこぼれ球を決めている。そういう選手がいると信じていた。よりこぼれ球を詰めやすい角度ではないけど、なるべくファーにシュートを打つことは意識していました」
「決めに行ってますから」と本人は笑ったが、枠に入れるシュートを打ったことが結果的に久保と酒井のゴールを引き出したのは事実である。求めていた得点を決めることができなかったため「満足感は全く得られていない」と話すが、その思いこそがストライカーの証だろう。
この世代の代表活動で最も得点を奪ってきた男が先発のピッチに戻ってきた。決勝トーナメントを見据え、エースストライカーは言う。
「エゴイストになりすぎるつもりはない。あくまでチームが金メダルを目指しているところが僕の一番大きなところ。そこに向けての得点を僕は狙っていきたい。チームが勝つために必要なことをしようと思います」
ここからやってみせる。ギラギラした目がより期待感を煽っていた。
著者プロフィール◎はやし・りょうへい/埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。その後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている