転機になったイタリア人監督就任

前日会見に登壇したカルロ・アンチェロッティ監督(写真◎青山知雄)
一見するとアンバランスな配置になるチームを組織として成り立たせるうえで重要な影の立役者、マテウス・クーニャだ。アンチェロッティ体制になってコンスタントに出番を得ている東京五輪の金メダリストは、センターフォワードの位置を起点にさまざまなポジションに顔を出し、時にはトップ下やインサイドハーフ、また別のタイミングではウイングのようにも振る舞う。「9番」にとどまることなく、自由に動き回る周りの選手たちをつなぎ止める触媒のような役割を果たしている。
アンチェロッティ監督が作り出したチームを一言で表すなら「組織化された無秩序」という言葉がぴったりだろう。クーニャはその「無秩序」を生み出した指揮官のチームづくりについて、ブラジルメディア『グローボ』のインタビューで次のように語っている。
「アンチェロッティの最大の長所の1つは、どんな選手からでもその選手の持つ最高の力を引き出せることだ。そのためには特定のフォーメーションや理論に従うタイプの指導をするのではなく、むしろ昔の理想とはされなくなったような形をあえて使うこともある。
(中略)サッカーというのは、人生のあらゆることと同じで、いま再び原点に戻りつつある。型にはまらない発想をする監督たちが増えてきているんだ。4-3-3のように多くの監督が成功を収めたシステムにこだわる時代は終わりつつあり、固定されたフォーメーションに縛られなくても、それぞれの選手から最高の力を引き出せるということが理解されてきている」
ブラジル代表は自国人監督が率いるという伝統がありながら、アンチェロッティ監督は史上初の外国人監督として就任し、6度目のW杯制覇というミッションを託された。2022年のカタールW杯終了後に退任したチッチ監督の正式な後任がなかなか決まらず、ラモン・メネゼスとフェルナンド・ジニズという2人の暫定監督で1年をつないだが、一貫性のないチームづくりによって低迷。その後、ついに見つかった新指揮官ドリヴァウ・ジュニオールも1年3ヶ月で見切った末の抜てきだった。
ミランやレアル・マドリーなどクラブレベルで数多くのタイトルを獲得してきたイタリア人指揮官は、守備にも献身的なクーニャの重用など欧州的なエッセンスを織り交ぜながら、混迷を深めていたブラジル代表を規律と創造性を両立するチームに生まれ変わらせた。
5月の就任以降に戦った5試合の成績は3勝1分1敗。一時は敗退の危機も囁かれた南米予選を無事に突破してW杯への切符を勝ち取り、選手たちからの信頼もがっちりとつかんでいる。5試合でわずか1失点と、パフォーマンスの安定感は抜群だ。
