予選突破が決まれば苦労はみんな忘れる

前日会見に登壇したルナール監督とGKのアルアキディ(写真◎舩木渉)
そんな彼らを苦しめている要因の1つが「ラマダン」だ。イスラム教徒が毎年必ず行う断食の期間が、今回のシリーズに被ってしまっている。サウジアラビア代表選手たちは日の出から日没まで何も飲み食いできずに試合や練習に臨まねばならないため、コンディション管理が困難を極めるのである。
中国戦でも終盤にかけてナセル・アル・ドサリやムサブ・アル・ジュワイルといったキープレーヤーたちが足を攣って交代を余儀なくされ、試合後の記者会見でルナール監督が「この時期に同じ症状に苦しんでいる選手は大勢いる。その理由はご存知か? 十分な水分を摂取していないからだ」と嘆く一幕もあった。
改めてラマダン時期のコンディション調整の難しさについて日本戦に向けた記者会見で問うと、フランス人の指揮官は「(ムスリムの)選手たちにとってこの時期はどうしても体調を整えるのが簡単ではなくなる。ただ、それは彼らが自分たちでやっていかなければいけないこと」とラマダンの影響が大きいことを認めた。
主力級の選手たちの多くを欠き、難しい調整を強いられる状況でサウジアラビアは底力を見せられるか。「予選の過程が難しかろうが、少し楽であろうが、とにかく通過してW杯本大会に出ることが大事。それが決まれば、それまでのことはみんな忘れる」と、これまでの批判を意に介さず結果で期待に応えていく姿勢を示したルナール監督は、残り3試合での逆転とW杯出場権獲得を諦めていない。「サッカーで非常に大事なのは自分たちを信じること、そして予選を通過できると信じることだ」という言葉には、自然と力がこもっていたように聞こえた。
逆境を乗り越えるには選手たちの奮起が必要になる。欧州組の1人でベルギー1部のベールスホットで主軸を担う23歳のファイサル・アル・ガムディや、アジア2次予選終盤から一気に台頭した21歳のアル・ジュワイルら若手が成長のきっかけをつかめるような試合になれば、サウジアラビア代表全体の底上げにもつながるだろう。
ここで打倒・日本に貢献できれば一気に立場を変えるチャンスと感じ、燃えている選手もいるはずだ。国内リーグでサウジアラビア人最多得点者となり32歳でA代表から初招集を受けたアブドゥラー・アル・サーレムのような勢いのある選手が、不穏な流れを変える鍵になるかもしれない。
個々のクオリティは変わらず高いが、『いつメン』の不在により組織としてのポテンシャルを読みづらくなったサウジアラビア代表。安定を捨てざるを得なかったことで、むしろ一気にパワーアップ…なんてことも十分に考えられる。日本としてはW杯出場権獲得で慢心することなく、これまで以上に警戒を怠らず向き合うべき相手になりそうだ。
取材・文◎舩木渉