北中米ワールドカップ・アジア最終予選で日本代表は9月に連勝スタートを飾り、グループCの首位に立った。強さと好調さを同時に示してみせたが、10月シリーズでは最大のライバルであるサウジアラビアと対戦する。過去にアウェーで勝ったことがない相手であり、今回も難しい試合になることが予想されるが、果たしてどんな選手がいて、どんな戦い方をするのか。チームリポートをお届けする。

上写真=サウジアラビアはボールを握ることのできるチームで個の能力も高い(写真◎Getty Images)

国内リーグでベンチに座る代表選手

 日本代表にとってサウジアラビア代表とのアウェーゲームは鬼門だ。すでに様々なメディアで触れられているが、過去のワールドカップアジア予選では一度も勝ったことがない。

 直近では2021年にカタールワールドカップのアジア最終予選で同組となり、ホームでは2-0で勝利したものの、アウェーでは0-1の敗戦。柴崎岳のパスミスを突かれ、途中出場のフィラス・アル・ブライカンにゴールネットを揺らされた。会場は今回と同じ、キング・アブドゥラー・スポーツシティだった。

 アウェーでのサウジアラビア戦通算成績は3戦全敗。10月10日に予定されている北中米ワールドカップアジア最終予選の第3節で、何としてもこの不名誉な歴史を塗り替えたい。

 現在サウジアラビア代表を率いるのは、ロベルト・マンチーニ監督だ。イタリア代表の指揮官としてEURO 2020を制し、3度のセリエA優勝など数々のタイトルを獲得してきた名将である。インテル時代には長友佑都も指導した。

 基本とするシステムは3-4-2-1で、2021年に日本代表から決勝点を挙げたアル・ブライカンはエースストライカーに成長し最前線に君臨する。その他のポジションにもアジアサッカー界では名の知れた選手たちがそろっている。

 ただ、2023年9月から始動したマンチーニ体制では思うような結果を残せていない。今年1月から2月にかけて開催されたAFCアジアカップでは韓国代表に屈してラウンド16で敗退。9月に始まった北中米ワールドカップアジア最終予選でも、初戦でインドネシア代表と引き分けていきなりつまずいた。

 国内では選手の選考基準への疑問もくすぶっているという。マンチーニ監督は9月の中国代表戦を前にした記者会見で「(代表メンバーのうち)20人の選手が国内リーグでベンチに座っている。代表選手なら所属クラブでキープレーヤーとしてプレーしていなければならない」と、外国籍のスター選手たちを世界中からかき集めたことで自国の選手が出場機会を失っている現状に警鐘を鳴らした。

 実際、今回の招集メンバーに含まれている25人の国内組のうち所属クラブでレギュラー格なのはアル・ヒラルのサーレム・アル・ドサリ、アル・ナスルのアブドゥラー・アル・ハイバリ、アル・シャバーブのフセイン・アル・シブヤニとムサブ・アル・ジュワイル、そしてアル・アハリのアル・ブライカンくらい。

 他はいずれも厳しい立場に置かれており、とりわけディフェンス陣は出場時間の確保に苦しんでいる選手が多い。GKに至っては招集された4人全員が9月シリーズ以降の公式戦で一度もピッチに立てていない。

 そんな中で負傷者の続出にも悩まされている。9月シリーズの2試合でゴールマウスを守った正守護神のモハメド・アル・オワイスが腰の負傷のため招集されず、右ウィングバックの重要戦力だったスルタン・アル・ガンナムも国際Aマッチウィーク直前のリーグ戦で負傷し招集を辞退。9月中旬に自宅アパートの2階バルコニーから転落して頭蓋骨などに重傷を負ったファハド・アル・ムワッラドも復帰のめどが立っていない状況だ。

 また、9月の中国戦で一発退場となったモハメド・カンノも出場停止のため招集外となっている。こうしてチームの柱となりうる選手を複数欠いている状況ながら、アル・ヒラルで主軸を担うセンターバックのアリ・アル・ブライヒは招集されなかった。

 継続的な出場機会の重要性を説いたにもかかわらず、サウジアラビア代表のディフェンスラインを長く支えてきたベテランDFをないがしろにするマンチーニ監督の姿勢は、識者やファンから批判の的になっている。

幅を使い、ショートパスをつないで組み立てる

画像: 2023年8月にサウジアラビア代表監督に就任したロベルト・マンチーニ監督(写真◎Getty Images)

2023年8月にサウジアラビア代表監督に就任したロベルト・マンチーニ監督(写真◎Getty Images)

 サウジアラビア代表は両ウイングバックに高い位置を取らせ、ピッチの横幅と縦の奥行きを目一杯使いながらショートパスをつないで攻撃を組み立てていくチーム。3バックには一定上のボールスキルが求められ、アル・ブライヒに関してはフィジカル全振りのプレースタイルとチーム戦術のミスマッチが招集外の原因とされているが、リーダーシップなども含め不在の影響は小さくないだろう。

 一方でマンチーニ監督は今回の日本代表戦に向けて多くの若手選手にチャンスを与えた。中でもベルギー1部のベールスホットでプレーする数少ない欧州組のファイサル・アル・ガムディとマルワン・アル・サハフィは、ともに各世代別代表で中心を担ってきた有望株。前者はU-23代表のキャプテンも務めたセントラルMFで、出場停止のカンノの代役となりうる存在だ。後者は20歳ながらU-23代表でも活躍した長身のウィンガーで、ここぞという場面での爆発力を持っている。

 他にも先に名前を挙げたアル・シブヤニとアル・ジュワイルのアル・シャバーブ勢や追加招集された18歳の長身FWタメル・アル・カイブリなど、A代表経験の少ない10代から20代前半の若手選手たちが多数メンバー入りしている。彼らの躍進は日本代表との大一番で鍵を握るかもしれない。

 負傷や出場停止による主力選手の不在、出場機会の少なさによるコンディションや試合勘への影響など、サウジアラビア代表はいくつもの不安要素を抱えて日本代表との大一番に臨む。これまでの不甲斐ない戦いぶりに加え、10月シリーズでも満足のいく結果を残せなければ監督交代か……という噂も持ち上がっており、マンチーニ監督にとっても背水の陣と言えるだろう。

 退路を断ったイタリア人指揮官は思い切った采配を振るってくるかもしれない。アル・ブライヒが不在の日本代表戦では右サイドバックにローマ所属のサウード・アブドルゥハミド、センターバックにハッサン・タンバクティとアリ・ラジャミ、左サイドバックにハッサン・カデシュを配置する4バックの採用が濃厚との現地報道もあった。個々のクオリティは変わらず高いため、チームとして不振だろうと油断はできない。あらゆる可能性への警戒と準備が必要だ。

 6万人を超えるとも言われる大観衆の前で中東の盟主“グリーン・ファルコンズ”がどんな戦いを見せるか。日本代表と激突する北中米ワールドカップアジア最終予選第3節は日本時間10日深夜27時(11日3時)キックオフ予定で、試合の模様はDAZNにて独占配信される。

文◎舩木渉


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