上写真=熱く激しくクレバーなプレーでチームを支えた冨安健洋(写真◎Getty Images)
後ろから聞こえてきた「行け行け」
インドネシア戦に右センターバックで先発した冨安健洋による「成果と課題」の説明は非常に明快だった。
まずはいくつかあった成果の一つ、ディフェンスラインの高さと陣形のコンパクトさについて。
「ベースに戻ったっていう言い方の方が正しいと思います。前の2試合、ベトナム戦とイラク戦ではやるべきことをやっていなかった。という言い方のほうが正しいと思っていて、いい時はやっぱり全体がコンパクトですし。なので、この試合はどっちかというと、やるべきことをしっかりとやる、自分たちにフォーカスすることが目的ではあったんで。そういう意味では、(今日の試合は)ポジティブな面は多いかなと思います」
イラク戦に至るまで国際Aマッチで10連勝中だった日本は高いライン設定で全体をコンパクトに保ち、ミドルエリアのプレスもよく効いていた。陣形が間延びすることはなく、攻撃の選手が高い位置からボールを奪いにいけば、後ろもしっかり連動。結果、面白いようにボールを狩ることができた。
しかしその持ち味が今大会は失われていた。だからインドネシア戦のテーマは、いい時の日本への回帰。果たしてチームは、その課題をクリアしてみせた。そしてその中心にいたのが、冨安である。
「相手がどうこうっていうよりは、自分たちにフォーカスすべきだなというところは、2試合が終わった後にチームの中であって。シンプルにやるべきことをやっていないよね、と。結果も内容も伴ってないよね、っていうところで今日の試合は、相手どうこうよりは本当に自分たちにフォーカスして、自分たちに何ができるのか、何をしないといけないのかを表現する必要があった。そのなかで結果がついてきた。ただグループリーグを通過しただけではなく、次につながる1試合だったかなと思います」
冨安は後方から積極的な声がけで前線の選手を動かし、相手に圧力をかけた。積極的な守備によって勝利を引き寄せたと言っていいだろう。
トップ下で出場し、攻守両面で力を尽くした久保建英が試合後にこの日の守備の中身と冨安のプレーについて振り返った。
「1、2試合目でプレスがはまらなくて嫌だったと言っていて、今日は冨安選手が行けるときは行かなきゃいけないよっていうふうに『行け行け』って、何回も後ろから『行け』って声を聞いたので行くしかないなって思っていました。たぶん彼の守り方的には、どんどん行けるときは行く。後ろは1枚余っていたいと思うんですよ、その意味で前がしっかり同数で行くことが大事になってくる。それはどこもやっていることなので、当たり前のことを言っているだけですけど、それを特に最終ラインのキャプテン以外の人が言ってくれるのがいいのかなと思います」
積極守備の実現に冨安が大きな役割を担っていたことがわかる。
「今日は冨安選手に行けって言われたら行かなきゃいけないんで、前の選手は疲れました(笑)。それ以外のところで、やっぱり落ち着いてますよね。僕だったら絶対できない、胸トラップしてから自分で運んでいくとか。守備のところでは大丈夫だろうなと見てて安心でした。逆にそれで周りの選手がゆるくならないように気をつけたいと思いますけど、安心して見ていられる感じはありますね」
久保が指摘する安心感が、この日はチームを覆っていた。そのことがベースとなり、いわば前輪駆動型のプレーを可能にしていた。
冨安は言う。
「やっぱり後ろの選手が自信を持って前の選手に『行っていいよ』っていうのを伝えないと、どうしてもチームとして勢いも出ないですし、自信も出てこないので。そういう意味では後ろの選手が行っていいよっていう姿勢と声を見せないといけなかった。そこはマチくん(町田浩樹)と一緒にしっかりとやれたかなって思います」
前から守る意識を持ち続けて手にした勝利の意味は大きい。間違いなく決勝トーナメント以降の戦いに、プラスをもたらすはずだ。
取材・文◎佐藤景