上写真=「重みがあった」という日本代表でのデビュー戦。しかし、納得はいっていない(写真◎小山真司)
■2024年1月1日 国際親善試合(@東京・国立/観衆61,916人)
日本 5-0 タイ
得点:(日)田中碧、中村敬斗、オウンゴール、川村拓夢、南野拓実
戦術的な交代、だが
伊藤涼太郎が思い描いていたピッチの景色と現実のそれでは、何が違ったのだろうか。
「まだまだ足りないな、と。実力不足だなっていうのは感じました」
2024年元日に念願の日本代表デビューを先発で果たした背番号7は、前半の45分のみに終わったプレーをそう表現した。本音だろう。
試合後に森保一監督から、こう伝えられたという。
「不完全燃焼だったと思うけれど、戦術的な交代だから」
そうはいっても、とにかく自分自身が納得していない。「日本代表の重みはすごく感じましたし、自分としては今日はあまり良くなかったです」。開始早々の7分にペナルティーアークのあたりから右足を鋭く振ったが、ボールはわずかに左に切れた。22分には田中碧が奪いきって縦へ、細谷真大が相手を背負いながらうまく落とし、右足で狙ったもののDFのブロックにあった。ビッグチャンスはあった。でも、決められなかった。
「自分のプレーをそこまで出せなかったし、かと言ってシュートチャンスはあったので、そこで決めきれなかったのは自分の実力不足。アピールできなかったのは悔しいですけど、切り替えて頑張っていきたい」
ただ、そのやるせなさと同時に、喜びも感じていた。それは未来への光になるだろう。
「良くはなかった。でも、楽しかったな、と。楽しい45分間だったから、あっという間に終わりました」
それをよく示すのは、2つのプレーかもしれない。どちらもアルビレックス新潟でブレイクさせた、中間ポジションでゆらゆら漂って引き出し、ファンタジーあふれるプレーでゴールに迫る独特のスタイルだ。
27分、DFとMFの間でポジションを取ると、田中碧が見つけて縦パスをつけてくれた。ターンしてから、さらに左の裏に走った奥抜侃志に右足のアウトサイドでスルーパスを送った。31分には右サイドに張っていた伊東純也にボールが入ったときに、中央からペナルティーエリアの角辺りまで斜めに走って、パスを引き出している。
「あのシーン(31分)はいいパスが入ってきたのをよく覚えていて、自分で行こうか周りを使うか悩みました。相手が中を閉めて引いて守ってくる印象だったので、もっとうまくサイドを使いながら、揺さぶりながら、真ん中を突くというのをやりたかったですね。ただそれは自分の考えで、いろんな選手の考えがあるので、短い中では連係面は合わせれなかったかな」
逆に言えば、時間がない中であっても、ボールを持った人の感覚と合えば、そこにボールは出てくるというわけだ。それが「楽しかった」ことの理由の一つである。
課題は守備面だ。この日は相手のレベルを考えると「守備に関しては、あまり悪いシーンはなかったかなと思っています」と試された感覚はなかったが、切り替えの速さと強度の高さは足りない部分だと強く自覚している。
「そこの部分は海外に行ってから鍛えられているところ。攻守の切り替えの瞬間に走るところは、ベルギーに行ってからはだいぶ成長していると思っています」
新潟時代も最初はプレー機会が限られながら、実力でその地位を築いていった。そして、代表デビューでも苦さと甘さの両方を味わった。物語はそんなふうに始まった。ここからどんな道をたどっていくのだろうか。