上写真=鈴木愛理さんとの交際宣言で顔をほころばせる田中碧。ワールドカップに向けて、さらにボールを握るためのすべてを向上させていく(写真◎スクリーンショット)
「違う選手でもいい」とまで言い切る理由
日本代表が最終予選で3戦2敗の崖っぷちから生還したきっかけは、昨年10月のホームのオーストラリア戦でフォーメーションを4-3-3に移行したことに認められる。そこから6連勝でワールドカップ出場を決めたいま、世界に勝つために次のステップに進む必要がある。
そのオーストラリア戦で先制ゴールを決め、インサイドハーフとして勇躍、日本復活劇の象徴的存在となった田中碧は「握るという作業を放棄するのはいけないこと」と断言する。
「ボールを保持すれば点を取られることはないし、点を取るチャンスしかない。そこは捨ててはいけないと思います」
目的はシンプルで「勝つなら握る作業が必要」だから。勝利からの逆算は、目の前に立ちはだかるのがアジアでも世界でも、変わりはしない。個人とチームの戦力の違いによって微調整を加えるのはもちろんだし、「守備ではセットしたときの精度は上げないといけないし、握る時間が長くなるとトランジションの守備も大事になってきます」と、ボールを奪うための課題は感じている。それでも、ボールを手放すことは勝負を捨てることになると信じている。
3月24日、ワールドカップ出場を決めたアウェーのオーストラリア戦では、ボールの動きをスムーズにするために、ビルドアップのときにサイドバックが高い位置に立つように調整した。その分、背中側に広大なスペースを作ることになるが、「シンプルにボールを握りたいから」と迷いはなかった。
「4-3-3にして後ろからのビルドアップがスムーズにいく回数は多くなかったと思います。でも、やっていく中で、もっとできるはずだという感覚がありました。だから、僕ができるだけ落ちずに2枚で進んでほしいと」
センターバックの2人で前進できれば、相手ゴールにより多くの人数で近づくことができる。
「(1人が後ろに加わって)3枚で作ったほうがいいこともありますが、2枚でもいけると思って落ちなかったんです。試合中にうまくいかなければサイドバックが落ちたり、僕が落ちる選択肢もあるけれど、最初のスタートの位置では、リスクを取ったというよりも相手との力関係や立ち位置を見て2枚でいけるのではないかと思いました」
オーストラリアの陣形や選手の特徴と自分たちの状態を見極めた上で、はじき出したのが「2でいける」だった。「根底にあるのは握りたいことで、それをしなければ僕がいる意味はないというか、違う選手でもいい」とまで言い切る。
ここからはそのバランスが試される。オーストラリアを超える個々の能力を持つ相手と戦う場合に、つまり、ワールドカップでベスト8以上を目指す日本が倒さなければならない世界の強豪を前にしたときに、どう判断するか。
「自分はいま低い位置でプレーする中で、葛藤というか、うまく回すことと自分が結果を残すことが必要だと思っているので、そこに難しさはあります。ゴールが遠くなるので、得点やアシストも遠くなっていくから、どういう割合でプレーするか。もっとていねいに自分の中で判断基準を持って、立ち位置を変える作業が必要になってきます」
だが、自分がすべてを操れると思うほど傲慢でもない。自らを「周りを気持ちよくプレーさせる」特徴を持つ選手だと理解してきた田中は、これまでもずっと、できないことを直視する誠実さで自分を救ってきた。
「正直、僕はワールドカップに出たことがないので、本当の世界との距離はわかりません。握ると言いましたけど、やるべきこととやれることはイコールではないですから、その中でやれることをやり続けながらも、やりたいことがどこまでできるのか、その中で何を基準にして戦うのかが大事になってきます」
握るのか、握らないのか。「2」で進むのか「3」で組み立てるのか。必ずしもその二項対立だけで物事を測れない分、その「間」をすくい上げる田中の感覚は、世界と伍して戦う上で不可欠になるのではないだろうか。