上写真=決勝点につながるシュートを放った浅野拓磨をチームメイトが祝福!(写真◎Getty Images)
■2021年10月12日 FIFAワールドカップ・アジア最終予選(@埼玉スタジアム 観衆:14,437人)
日本 2-1 オーストラリア
得点:(日)田中碧、オウンゴール
(オ)アイディン・フルスティッチ
持っているものをすべて出したゲーム
森保監督は、決断した。システムを4-2-3-1から4-3-3に変え、中盤は遠藤、守田、田中の3人で構成。これまでチームにはボール奪取後のデザインがなかったが、この日はその点が大きく改善された。ボールのピッカーとなったのは、田中だ。機に応じて2CBの右(あるいは中央)に降りて数的優位をつくり、相手の2トップのプレスをかわしてビルドアップを担った。
守田も取るべきポジションをしっかり取って、出し手にも受け手にもなり、ボールを動かしていく。そして遠藤もボールを狩るという本来の持ち味を生かし、力強い奪取からショートカウンターの出発点となった。
中盤の安定によって、サイドバックも攻め上がるタイミングを得て、特に長友が前半から積極的に飛び出した。最終予選のこれまでの3試合とは明らかに装いを変えた日本は、オーストラリア守備陣に後手を踏ませた。序盤から攻めの形をピッチに描いた日本は欲しかった先制点を手に入れる。
8分、遠藤のパスを受けた南野がボックス左隅からクロスを供給。相手が触れたものの、ボールは逆サイドまで攻め上がっていた田中のもとへ。田中は冷静に右足でゴール左隅へ蹴り込んだ。
日本は1点を手にしたあともボールを動かし、安定したポゼッションでゲームを進めていく。右CKから遠藤のヘディングや長友のクロスから大迫が飛び込むなど惜しいシーンを生み出した。
しかし何度か訪れたチャンスをモノにできずにいると、41分に最大のピンチを迎える。吉田のサンドチェンジをカットされ、タガートにボックス左からシュートを打たれた。権田にわずかに触ってコースを変え、シュートは左ポストを直撃。危ない場面だったが、何とかしのいでみせた。
1-0で前半を終えて迎えた後半、圧力を強めたオーストラリアに攻めの形をつくられる場面が増えていく。じわりじわりと自陣ゴール前に迫れるようになっていった。すると65分、左サイドに進入され、クロスを許す。守田が懸命に戻り、走り込むフルスティッチより先にボールを止めようとスライディング。しかし相手が先に触り、転倒。レフェリーはPKを宣告した。
日本の選手たちは懸命に抗議したが、ボイルがボールをセット。だがこれはVARの結果、ボックスの外のファウルと判定され、取り消しになった。ペナルティーアークからの直接FKに変更され、安堵したのも束の間だった。フルスティッチの左足から強烈なボールが放たれ、ゴール右隅に突き刺さる。70分、日本は1-1の同点に追いつかれてしまった。
勝つしかない日本は、南野に代えて浅野を投入。さらに長友に代えて中山、守田に代えて柴崎とフレッシュな選手をピッチに送り、1点を取りにいった。刻一刻と時間が無くなっていく中、古橋と浅野が何度も相手最終ラインの裏に走り、相手を押し込む。すると86分だった。吉田のロングパスから抜け出した浅野が相手のDFと駆け引きし、ボックス左からシュート。相手DFの足に当たったボールはGKが伸ばした手をかすめて右ポストに当たる。DFベビッチがクリアするが、そのままゴールイン。浅野の気持ちの乗ったシュートが日本の勝ちゴールにつながった。まさしく日本を救うゴールだった。
「これまで思うような結果が出ず、難しい戦いでしたけど、選手たちがW杯の出場権を得るために、つかみ取るために、諦めずにしっかり気持ちを切らさず、毎回良い準備をしてくれて、自分たちの持っているものをすべてゲームに出したことが今日の結果につながったと思います。今日の試合は本当にプレッシャーがかかって難しかったですけど、選手もスタッフも一丸となって、良い準備からハードワークして、みんなで勝ち取ろうということを選手たちが実践してくれたと思います」(森保一監督)
この勝利は日本にとって大きい。田中と守田の存在によって中盤のバランスが回復し、ビルドアップが大きく改善したこと。そして厳しい戦いに勝ってチームに漂っていた閉塞感を破ったこと。浅野のシュートがゴールにつながった瞬間(オウンゴール)、ベンチが多くの選手が飛び出し、歓喜の輪ができた。それは今予選ではなかなか見られなかった感情の爆発だった。
「これからまだまだ厳しい戦いが続きますので、今日の勝利を次の試合につなげられるように」
この1勝が大きな意味を持つのは間違いないが、指揮官が言う通り、「まだまだ厳しい戦いは続く」。11月シリーズでまた前節までの戦いぶりに戻ってしまっては意味はない。10月の2試合は予選のヤマ場に違いなかったが、ここまでに積み上げた勝ち点を見れば、ここから先、すべての試合がヤマ場とも言える。
「(自分の)進退に関してはとくに今日の試合だけが、かかっているとは思っていません。毎試合、監督としての道が続くのか、岐路に立っていると思っていますので、今日の試合で特別、自分の進退について考えることはなかったです」
日本は崖っぷちまで追い込まれ、監督の進退についても報じられる状況だった。だが、それも代表監督として当然のことと受け止める。残り6戦。ただW杯出場権をつかみ取るために、森保監督は「チーム一丸となって進んでいく」と強調した。
取材◎佐藤 景 写真◎小山真司、Getty Images