上写真=試合終了直後の熊谷と清水の抱擁。素晴らしいプレーを見せたが、4強進出はならなかった(写真更新/Getty Images)
■2023年8月11日 女子W杯・準々決勝(@イーデンパーク)
日本女子 1−2 スウェーデン女子
得点:(日)林穂之香
(ス)アマンダ・イルステッド、フィリパ・アンイエルダール
若い選手たちが躍動し、多彩な戦術を示す
試合開始直後からスウェーデンの圧力を受けた。これまで対戦してきた4チームとは明らかにプレスの強度が違った。日本が後方からビルドアップする際にはドイスボランチの長野と長谷川に圧力がかかり、前を向くことさえままならない。それは前線でポストワークを担う田中にクサビのパスが入ったときも同じで、この攻撃のスイッチ役に対してスウェーデンは必ずプレッシャーをかけて潰しに来た。
一方で守備の局面では日本のプレスがはまらず、相手に左サイドから進入される場面が増えていく。25分にはシンプルにロングボールを蹴られ、ブラックステニウスにあわやのシーンを作られた。スウェーデンには日本のウイングバックが上がった際にできるスペースを使う意図が明確にあり、そこへどんどん人とボールを送り込んできた。
自陣で長い時間プレーを強いられ、なかなか前進できない日本は必然的に後手に回るプレーが増えて、警戒していたセットプレーから先制ゴールを献上することになる。32分、自陣で与えたFKからだった。アスラニがゴール前に送ったボールは一度はGK山下がパンチングでクリアしたが、距離が出ず、ボックス内で相手に拾われてしまう。そこから連続攻撃を浴び、クリアできずに最後はイレステットに蹴り込まれた。
プレスも、パスワークも、速攻も、ここまでの4試合で日本が見せてきた特長をスウェーデンに完全に封じられる前半になった。そして1点のビハインドで迎えた後半も、攻撃の局面でスウェーデンのプレスを回避できず、リズムをつかめない時間が続いた。守備でもスウェーデンのパスワークに翻弄される場面が目立ち、前向きの守りからボールを奪って攻めに転じる得意の形も出せなかった。
そして51分には2点目を決められてしまう。CKの場面でゴール前でクリアしたかに思われたが、VARの結果、長野がハンドを取られてPKを献上。アンイエルダールに決められ、リードを広げられた。
リズムの出ない日本がようやく攻勢をかけられたのは60分を過ぎてからだった。相手の足がやや止まり始め、日本のパスがつながり始める。74分には途中出場の植木が鋭い仕掛けでボックス内に進入して相手に倒され、PKを獲得。だが、自ら蹴ったキックはバーを直撃して失敗に終わる。87分に藤野が狙った直接FKもバーを直撃したものの、ネットを揺らすことができなかった。
それでも日本は重心を前にかけ、攻めに出ると直後に清家のシュートのこぼれ球を、ゴール前に飛び込んだ林が押し込み、1点を返す。その後、アディショナルタイムの10分間も猛攻に出て、後半だけで11本のシュートを放ってみせた。だが、時すでに遅し。同点ゴールをあげることはできず、1−2で敗れることになった。
「プレッシャーをかけても、裏に走られたり高さを使われたり、相手のストロングとわかっていたこと(を出された)。もう少し攻撃の時間を長く作りたかったというのはありますが、それでも後半しっかり戦う姿勢を見せて、返してくれたこと、最後まで諦めずに戦ってくれたことを誇りに思います。(試合後の円陣では選手に対しては何と?)これからもなでしこ続いていくという話はしました」(池田太監督)
多彩な攻撃と粘り強い守備で大会屈指の好チームとして称賛を集めたなでしこジャパンの戦いは、ベスト8で終焉を迎えた。だが、指揮官が言うように、なでしこジャパンはこれからも続いていく。5得点を記録した宮澤や前線で存在感を示した藤野、左サイドのチャンスメーカー遠藤、安定した守備を見せた高橋ら二十代前半の若い選手たちにとって、今大会の経験は大きなものだったに違いない。
スウェーデンのハイプレッシャーや高さへ対抗する力はまだまだ足りなかった。それは事実だ。ただし、相手によって戦い方を柔軟に変える多彩さや初出場の若い選手たちの躍動など、大きな収穫も得た。今回のW杯は、来年のパリ五輪や次回につながる大会になったと言える。
▼出場メンバー
・日本◎GK山下杏也加、DF高橋はな(90+2分:浜野まいか)、熊谷紗希、南萌華、MF清水梨紗、長谷川唯、長野風花(80分:林穂之香)、杉田妃和(46分:遠藤純)、藤野あおば、宮澤ひなた(80分:清家貴子)、FW田中美南(52分:植木理子)