上写真=なでしこジャパンは女子アジアカップで来年のワールドカップ出場権を獲得したが、ベスト4で敗れ3連覇はならず(写真◎AFC)
「もっともっとオーガナイズして」
2021年に行われた東京オリンピックでベスト8止まり。この望ましくない結果を期に、2023年女子ワールドカップ、2024年パリ・オリンピックで上位進出を狙う。それが近未来の日本の女子サッカーの目標になる。
2011年の女子ワールドカップにおいて、日本がFIFA主催の国際大会で初めて世界一を獲得し、続く12年ロンドン・オリンピックと15年の女子ワールドカップでも準優勝を成し遂げたなでしこジャパンの監督、佐々木則夫氏はいま、女子委員長という要職にある。今回の女子アジアカップでは団長という立場で同行し、チームを見守ってきた。
アジア各国との対戦から見通すのは、世界との距離感だ。ヨーロッパ、南北アメリカはアジアよりもはるかにハイクラス。
「アジアでは点は取れるかもしれないけれど、ヨーロッパでサイズの大きい選手と対戦すると、相手の守備範囲が広くなる。シュートを打たせてもらえないから、打たせてもらうためのスピードの準備、ボールを呼び込む質、アクションするタイミングの質を上げていくことが次の課題になってきます」
池田太監督率いる新生なでしこジャパンは2021年10月に立ち上がったばかりで、コロナ禍の影響を受けて予定していたトレーニングを十分にこなせないまま、女子アジアカップを迎えることになった。ミャンマーに5-0、ベトナムに3-0、韓国に1-1と2勝1分けでグループステージを突破、準々決勝でタイに7-0で圧勝したあと、準決勝で中国に2-2からPK戦の末に敗退した。
池田監督もこの大会で攻撃のバリエーションを増やすことをテーマの一つに掲げていた。佐々木委員長の目には「その手前までは来ていると思います。いろいろな組み合わせではできているので、もう少し時間がかかるのかな」と映っていた。この評価を語ったのがタイ戦の前で、そこから9ゴールを奪っただけに改善の兆しも見られるが、世界との距離をものさしにして測れば、3連覇を達成できなかったから、依然、課題は残るだろう。
「日本は攻撃でも守備でも連係していく質が高いと思います。もっともっとオーガナイズしてやっていくことが大事です。池田監督もコンパクトに攻守に準備することを求めていて、ボールを奪えそうになったら攻撃にアクションする準備をして、奪われた瞬間には切り替えて高い位置で奪う準備をしています。その準備のスピードと質が重要なのです」
繰り返すのが「準備」という言葉だ。準備の質が高ければ、表現されるプレーの精度も上がっていく。その点で、池田監督の手腕を評価している。
「常に選手にアドバイスしたり改善したり、とてもポジティブなアプローチが多いと思います。できなかったことについてもポジティブに伝えられるので、選手たちが修正していこうという感覚になるコーチングをしているのは、彼の良い特徴でしょう」
明るく前向きに選手に接する手法は、「僕もポジティブなタイプだったと思います」と自身に重ねて見ている。
もう一つの評価ポイントは「シンプル」だ。
「池田監督は常にいろいろな視点を含めながら、ミーティングでは簡素にポイントをポジティブに伝えていて、それが選手を引きつけています」
「多くのものを選手たちに要求せずに、シンプルに準備のスピードと切り替えが大事だという、サッカーの基本的なベースからアプローチしているので、選手もわかりやすいと思います」
無駄なくシンプルに、かつポジティブに。それは選手たちも口を揃えていることで、こうした指導哲学が、勝利を、ゴールを、ボールを「奪う」というフレーズに集約されているのだろう。
「ダメな要素もこうしたら良くなるよね、ちょっとした差だよね、と話してトライさせる空気感を醸し出しています。常にいろいろな選手に言葉をかけていて、まるで明石家さんまさんが指導しているような空気感です」
独特の例えが佐々木委員長らしいが、「ワールドカップ、オリンピックで上位に進出するというミッションに失敗は許されない」と、池田監督と、責任者である自らに厳しく課している。
そのためには「なでしこイズムは忘れてはいけない」と戒める。ひたむきに戦い続ける伝統を次世代にしっかりつなぎながら、2023年のワールドカップに向けて、次の準備は進んでいく。