上写真=GK阿部航斗は長かった決勝をさまざまな思いで振り返った(写真◎J.LEAGUE)
■2024年11月2日 JリーグYBCルヴァンカップ決勝(観衆62,517人/@国立競技場)
名古屋 3-3 PK5-4 新潟
得点:(名)永井謙佑2、中山克広
(新)谷口海斗、小見洋太2
「ミスして言うのもあれですけど…」
「あれは阿部のミスに見えてしまいますけど、チームのミスなので」
谷口海斗は、阿部航斗のミスではないと言い切った。31分、ビルドアップの局面で阿部が受けたボールを縦につけようとしたところで、名古屋のFW永井謙佑に渡してしまった。そのまま蹴り込まれて先制点を献上することになった。GKからのビルドアップはこのチームの生命線。だからこそ、名古屋は狙っていた。
「難しいゲームにしてしまいました。結局、仲間に追いついてもらえましたけど、自分のミスで苦しくなってしまった」
阿部自身は仲間の思いやりを受けた上で、自分のミスであることを改めて口にして、その上で、「試合に臨みやすいように雰囲気を作ってくれたので、みんなに感謝したいですし、なんとか結果で恩返ししたかったなという思いです」と勝利に導けなかったことを悔やんだ。
ここまでルヴァンカップでは1試合を除いてすべてゴールを守ってきた。決勝のピッチに立つことも、進出を決めた時点で石末龍治GKコーチから伝えられていたという。
「いまだから言えますけど、決勝が決まったときには、何事もなければ決勝に出ることは伝えられていました」
10月13日に川崎フロンターレを下してからずっと、この日のために集中してきた。自分のためだけではなく、ライバルのためにも。
「リーグ戦に出ている小島(亨介)選手に対しては、彼も絶対に出たいと思いますし、(小島がアカデミー時代を過ごした)名古屋が相手なのでなおさらその気持ちを強く持っていたと思います。そこで自分が出ることにプレッシャーは多少あったけれど、任せてもらえたので、彼のためにも勝ちたいという思いで今日まで準備してきました」
だからこそ、あのミスは自分を苦しめることになるのだが、その場で切り替えることが必要だった。
「ミスをしたときには相手も続けて狙ってくると思うので、顔つきや雰囲気が落ちていたら、相手ももう1回行けるぞ、という気持ちになる。だからそこの姿勢というか、立ち居振る舞いをしっかり見せるように意識していました」
その表現方法が、逃げないことだった。
「そのミスのあとでも、ビルドアップにしっかりと関わりながらいい形で前進できていました。気持ちの切り替えの面だけ見たら、そんなに悪くはなかったとは思います」
そこでビルドアップをあきらめて蹴ってしまえば相手の思うつぼだし、なにより新潟のサッカーではなくなってしまう。
「下でつないだり、相手のプレスを誘っておいてその逆を取るという前進のほうが効果的だと思うので、そこはビビらずやらなければいけない。味方も自分の出しやすいようなポジションに立ってくれたので、チーム全体で切り替えさせてくれたと思っています」
PK戦にもつれ込んだ末に敗れたが、最後まで勝負の行方のわからないゲームになった。
「ミスして言うのもあれですけど…」と遠慮がちに、しかし実感を込めて長かった決勝をこう振り返った。
「本当に楽しかったですし、普段あまり試合に出ることができていない中でルヴァンカップは任せてもらって、こういう舞台に立たせてもらったことは、本当に幸せです」
この日のMVPとなった名古屋のGKランゲラックと比較して、「自分はまだまだ」とも振り返る。ミス、そこからの切り替え、仲間への思い、そして目指すべき高み。さまざまなものを、決勝というかけがえのない舞台で見ることができた。