上写真=東洋大4年生の稲村隼翔はいまや、新潟になくてはならない存在になっている(写真◎J.LEAGUE)
■2024年10月13日 ルヴァンカップ準決勝第2戦(@U等々力/観衆21,159人)
川崎F 0-2 新潟
得点:(新)小見洋太、太田修介
※新潟が2勝で決勝進出
「行くなら負けるなよ」
いま話題の若きセンターバックである。
左利きで身長は182センチ。東洋大4年生で、アルビレックス新潟への来季加入が決まっていて、今季は特別指定選手として加わっている。大学の公式戦などとの兼ね合いで常に帯同できるわけではないが、ルヴァンカップ準決勝第1戦の活躍によって多くの新潟サポーターが大学の指定運動部支援で寄付をして感謝を示したことも大きな話題となった。
当初、準決勝は第1戦だけに出場する予定だったという。ところが4-1で勝利を収めたその試合の後に、東洋大の井上卓也監督から電話をもらったそうだ。
「行きたい方に行っていいぞと言ってくださって、行くなら負けるなよと」
10月12日には東洋大の関東大学リーグ1部の試合があったが、大学側の協力のおかげでスキップし、翌13日の準決勝第2戦にフル出場。川崎フロンターレに2-0で勝って、井上監督との男の約束も果たすことができた。
熱望される理由は明らかで、いまや欠かすことのできないプレーヤーだからである。
左足から繰り出す、長短織り交ぜたパスが最大の魅力。特にミドルレンジ、ロングレンジのキックは、トランペットが迷いなくまっすぐ客席に音を届けるかのような鋭さに満ちている。この試合ではGKチョン・ソンリョンのビッグセーブに防がれたものの、53分にはパンチのある左足ボレーでゴールを襲ってもいる。
「もともとアタッカーだったので、ああいうのは得意なんです」
培ってきた攻撃センスをそのままセンターバックのポジションに持ち込んでいる。
守備ではパワーストライカーのエリソン、山田新と張り合った。そして負けなかった。
「自分はフィジカル的にまだああいう選手には通用しないと思っていて、頭を使いながら、 トラップしたスキを狙ったりパスコースに入ったり、考えながら対応していました」
駆け引きで優位に立った。攻めも守りも通用する実感がその心を包む。ただ、驚きはないのだとうなずいてみせる。
「大学に入学したときから3年になったらプロ行きを決めて、4年で活躍する目標がありました。だから、いまの姿を想像していないわけではありませんでした。ここまでできるんだっていう自信は持ってやっています」
「その自信はあんまり変わってないというか、もともと自信を持ってやる性格だと思うんです。試合で得た自信もそうですけど、自分の中で根拠のない自信というか、やってやるぞって気持ちが大事だと思っています」
言葉は強いが語り口に嫌味がない。まだキャリアの入り口に立ったに過ぎないが、伸び盛りのいま、ピッチの上で大いなる刺激を得て、「想像していた自分」もアップデートされていく。
「やっと理想の自分と現実の自分がちょっとずつ近づいてる部分もあります。でも、こうやって試合に出るたびに理想はもっと高くなっていくので、そこにまた近づけるように成長していこうという風に考えてます」
理想に追いつく少し前に、理想が先を行く。そのサイクルが心地いい。そんな右肩上がりのいま、チームが目標にしてきた「てっぺん」が目の前にある。11月2日、ルヴァンカップ決勝だ。
試合直後の時点で稲村の出場については、松橋力蔵監督も「ノープラン」と明かし、稲村も「まだ何も決まっていなくて」と慎重ではある。ただ、いまはもう、そのピッチで背番号45が勇躍していないことを想像するほうが難しい。