アルビレックス新潟は誰が出ても同じスタイルのフットボールを貫くことができる。9月8日のJリーグYBCルヴァンカップ、プライムラウンドの準々決勝でそれを改めて証明したのが、遠藤凌と稲村隼翔のセンターバックコンビではないだろうか。第1戦の前半アディショナルタイムから、そして第2戦をこの若きコンビで戦った。近未来を担う2人の現在地とは?

上写真=遠藤凌(左)と稲村隼翔。ともに持ち味を出して戦い、ベスト4進出を手にした(写真◎J.LEAGUE)

■2024年9月8日 ルヴァンカップ準々決勝第2戦(@Gスタ/観衆6,726人)
町田 2-0 新潟
得点:(町)中島裕希、下田北斗
※1勝1敗、新潟が5得点2失点で得失点差で上回り準決勝進出

ヘッドとキック

 ルヴァンカップ準々決勝第2戦。ベスト4進出のかかる重要なアウェーゲームで、アルビレックス新潟のセンターバックには26歳の遠藤凌と大学在学中の22歳の稲村隼翔という次世代コンビが立った。千葉和彦、舞行龍ジェームズ、トーマス・デンといった経験豊富な顔ぶれを継ぐことが期待される、近未来のオレンジ&ブルーの壁である。

 オーストラリア代表に参加しているトーマス・デン、第1戦で脳しんとうで交代した舞行龍ジェームズが不在の中で、松橋力蔵監督は第1戦で前半アディショナルタイムから組んだ2人に第2戦でも守備を任せた。右に遠藤、左に稲村。

「非常にヘディングの強さもある選手で、相手の攻撃に対して強みになるかなと。ただ今日は少し勝率が低かったかもしれません」

 松橋監督は遠藤を起用した狙いと課題をこう説明する。相手もオ・セフンとミッチェル・デュークが不在で、184センチの桑山侃士にエアバトルを託していた。遠藤は真っ向勝負を挑んだ。

「そのことは特に監督には言われてはいなかったですけど、意識はしていました。(桑山と)バチバチなバトルは多かったんですけど、もっと勝てればよかった」

 自分が起用された理由をよく分かっていた。それがアピールにつながる自負があったから。

「大学のときからヘディングはよく練習してましたし、去年もJ2でそういうシーンはいっぱいあったので、試合をこなすごとに成長できたところかなと思います」

 いわきFCでの武者修行で、特に昨季はJ2で36試合に出場して実戦をこなしたからこそ、手触りのはっきりした経験が体に残った。

 稲村は東洋大学4年生の特別指定選手だが、すでにリーグ戦だけでも2試合のフル出場を含む9試合に出場していて、ルヴァンカップでも4試合フル出場。左足から繰り出すフィードのセンスと技術の高さはすでに知れ渡っている。松橋監督もその長所を高く買う。

「左足のスピードのあるキックの能力、ボールをつける判断力が非常に高い選手です。相手をひっくり返すこともできますし、左利きということもあって同サイドのラインで長いグラウンダーのパスで相手の中盤のラインを越えたフィードを正確に出せます。そこだけでもだいぶ前進する手間も省けるので、もちろん手間を省くのが目的ではないけれど、そこでいい関係ができるとチャンスになるわけです」

 ただこの日は、ロングキックの距離がわずかに足りなかったり、相手に警戒されてビルドアップのパスが引っかかったりと、小さなミスが積み重なった。「単純に自分の質のところでレベルが低かったと思っています」「今日のような内容ではプロで通用しない」と吐き出す言葉が力を失う。

 だが、ポテンシャルは高い。「これまでも得意としていて、新潟に加入してからさらにレベルアップできていると思います」と、やはりキックで身を立てる意欲もにじむ。そこに、もう一つの魅力である「観察眼」が大きな役割を担う。

「短距離のパスだと千葉(和彦)さんが、ロングフィードなら舞行龍さんがうまくて、ほかにも盗める選手がたくさんいるので、ここ2年間でそれが成長につながっていると感じています」

 大学の活動との兼ね合いでフル参戦はできていないが、だからこそ限られた時間で、目で見て、自分に落とし込んで、という作業により神経を研ぎ澄ます必要がある。もちろん、目で盗むだけではなくて、遠慮なく聞きにいく。

「言い始めたらきりがないですけど、ちょっとしたボールの位置や置き方、あとは目線とか、もう本当に細かいところを千葉さんの経験を元に教えてもらっています」

 FWへの縦パスを最終ラインから突き立てまくる「千葉流」のパスが、稲村のプレーの幅を広げている。

「てっぺん」に近づいている

 残念ながら、この準々決勝第2戦では町田に2失点を許した。41分の1点目は、ナ・サンホに新潟の左から中央へ進入され、短くペナルティーエリアの中に送られると、中島裕希にダイレクトで流し込まれた。

 稲村はこのシーンでお貸したマークミスを悔やむ。

「シンプルに自分のマークすべき選手に走られてしまっているので、もっとシビアについていかなければいけなかった。最初はクロスを予測してたんですけど、ギャップに走られてしまっているので、もっと距離を詰めること、相手のシュートに対しては股は絶対に通させてはいけないと思うので閉じないといけない。シュートはダイレクトで来るとは思ってましたけど、うまく股の下をいかれたなっていう感じです」

 45分の2点目は、またもナ・サンホのドリブルがこぼれたところを、下田北斗のダイレクトループシュートが稲村と遠藤の頭上を越えてゴールに吸い込まれた。

「2点目に関してはスーパーなゴールではありますけど、全体的にペナルティーエリア内での寄せの甘さが目立ってしまったゲームだと思います。誰が、ということではなく、チームとしてボールに近い選手がもっと寄せるところは徹底したい」

 どちらにも共通するのが、相手との距離の詰め方の反省だ。稲村にとっては、これがプロの洗礼なのかもしれない。

 遠藤の方には納得のプレーもあった。

 73分、新潟の左を抜けたエリキがDFラインとGKの間をグラウンダーで通す絶妙のセンタリングを入れてきた。逆サイドから藤本一輝が走ってくる。だが、落ち着いてスライディングして右足で先に触り、ゴールラインの外にかき出した。

「クロスが上がってくる前にいい体勢を作れればよかったんですけど、後ろ向きになっちゃって、でもうまく外にクリアできたと思います」

 ゴールに向かって走りながらだから、それだけでDFにとっては危険が増す。ボールを見つつその逆から進入を狙う藤本の動きを、3度に渡って首を振って確認した。守備の技術が生きた。

「オウンゴールになりそうな場面でしたけど、しっかりとクリアできてよかったです。もうちょっと早めに当てちゃうとゴール方向に飛んでいってしまうので、外に送り出すイメージで蹴りました」

 藤本のスピード、自分の体勢、ボールのコースとスピード、そしてゴールの位置。そのすべてを瞬時に判断しながら、慌ててボールに足を出さずにぎりぎりまで我慢しながら、最後の最後に足を伸ばすタイミングは完璧だった。

 第1戦で5点のリードを奪って迎えた第2戦で、松橋監督は「プレッシャーもあった」と独特の難しさを感じていた。そこで、2失点こそしたものの勝ち抜いたという事実は、特にこの2人にとってはかけがえのない経験になっただろう。

 それは、ここで終わりにしてしまっては意味を失うことになる。9年ぶりのベスト4のその先へ。遠藤からは落ち着いた口調の決意表明が飛び出す。

「目標とする『てっぺん』に、ルヴァンカップでいい位置に近づいていると思います。一戦一戦、しっかりと戦っていきたいと思います」

 誰が出ても自分たちのスタイルを打ち出せる。その象徴的存在として、2人は「てっぺん」に這い上がるつもりだ。


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