上写真=Jデビュー翌日、3月15日の練習に臨む石田。先発の座を目指す挑戦が始まった(写真◎石倉利英)
「デビュー戦で貴重な経験ができた」
3月14日の明治安田生命J3リーグ開幕戦。アウェーでの鹿児島ユナイテッドFC戦で控えメンバーに入った石田は、近くにいるボールパーソンを見て、かつての自分の姿を重ね合わせていたという。
「中学時代にJリーグの試合でボールパーソンをしていたので、『立場が逆になったな』と感じていました」
徳島県出身で、徳島ラパスでサッカーを始め、中学時代は徳島ヴォルティスのジュニアユースでプレー。トップチームの試合でボールパーソンを務め、目の前で繰り広げられる試合を見ながら、プロのピッチに立つことを夢見ていた。
市立船橋高(千葉)を経て今季、鳥取に加入し、54分に交代出場してJリーグデビューを果たす。「周りを見渡すと、お客さんがたくさんいました。選手目線でプレーすることができて、初めて『プロになったんだな』と実感した」と振り返ったように、夢が現実になった瞬間だった。
とはいえ、感慨に浸ったのは一瞬。出場した時点で鳥取は0-2とリードされており、反撃に転じなければいけない状況だった。4バックのCBに入った石田は、鹿児島の攻撃に立ちはだかりつつ、攻撃の起点となることを目指す。
もう一つ、夢に見ていたことがある。もっとも、こちらは試合前夜の睡眠中だった。
「夢の中でゴールを決めたんです。どんなゴールだったかは覚えていないんですが、めちゃくちゃ喜んでいたら、スタンドから『イシダー!』という声が聞こえて。おかげで、すごく目覚めが良かったです」
いま思えば、予知夢だったのだろう。65分にCKからのこぼれ球を蹴り込んでJリーグ初ゴールを決め、2つ目の夢を現実にした。
「ゴール前なので、とにかく足を振ろうと思っていました。最初に左足を振ったら変な感じになってしまいましたが、たまたま右足の前に来たので、思い切り蹴りました」
そのときは夢のことを忘れていて、「まだ1-2だったので、すぐに試合を再開したいと思っていた」とのコメント通り、走って自陣に戻った。このゴールで勢いづいた鳥取は、74分にFW田口裕也が決めて同点。さらに後半アディショナルタイムの90+3分にはMF新井光が決め、3-2の大逆転勝利を収めた。
石田は試合後、夢の中での出来事を話していた田口から「本当に決めたな」と言われ、夢のことを思い出したという。「ゴールを決めることはできましたが、チームが負けていたら意味がなかった。逆転してもらって勝つことができて、デビュー戦で貴重な経験ができました」とチームメイトに感謝した。
Jリーグデビュー戦で初ゴールを決め、チームも勝利。高卒ルーキーとしては素晴らしいスタートに見えるが、試合後にクラブ公式SNSでも語っていた通り、満足できないこともあった。
「プレシーズンの短期目標は開幕スタメンでした。実現できず、めちゃくちゃ悔しかったです。スタメンになるためには、ディフェンスなら無失点で抑えるなど、試合に出て、結果を出し続けることが求められます。練習からチームで一番の取り組みをして、がむしゃらにやっていきたいです。ピッチ内だけでなく、ピッチ外での立ち振る舞いも意識していきます」
21日の第2節、ホーム開幕戦では、いわてグルージャ盛岡と対戦する。2月の紅白戦で一度プレーして「あの雰囲気がすごく好き」と感じたAxisバードスタジアムでの初の公式戦試合に向けて、「また試合に出られるように、日々努力するしかないです。スタメンの座をつかむためにも、大事なのは日々の練習」と決意を新たにしていた。
取材中、近くを通りかかった髙木理己監督が「もう終わったことだからな」と声を掛けると、「分かっています。切り替えています」と表情を引き締めた。2つの夢を現実にした最初の一歩から、加入の際にコメントで発表した「ガイナーレ鳥取を日本一のクラブにする」という目標に向けて、すでに次への一歩を踏み出している。
取材・写真◎石倉利英