10月16日、天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会の決勝で、J2のヴァンフォーレ甲府がJ1のサンフレッチェ広島を下して初優勝を果たして、大きな話題となった。100年を超える歴史ある大会で、「2部優勝」が示す意味とは。

上写真=J2では苦しみながらも、吉田達磨監督が復帰1年目で甲府を天皇杯で初タイトルに導いた(写真◎小山真司)

文◎国吉好弘

「言うことを聞いてくれる選手たち」

 第102回を迎えた天皇杯全日本選手権は10月16日、J2でも18位に沈むヴァンフォーレ甲府がサンフレッチェ広島との決勝戦で1-1からのPK戦で5-4の勝利をつかみ、初優勝を果たした。

 J2のチーム、あるいは前身のアマチュア時代の日本サッカーリーグ(JSL)時代の2部のチームが天皇杯を勝ち取ったことは過去に3回あった。

 1981年度の第61回大会ではJSL2部の日本鋼管が同1部の読売クラブ(現東京ヴェルディ)を決勝で2-0で破って、2部のチームとして初めて日本一に。続いて翌年度第62回大会でも2部のヤマハ発動機(現ジュビロ磐田)が1部のフジタ工業(現湘南ベルマーレ)を延長戦の末に1-0と破って初優勝した。

 1993年にプロフェッショナルのJリーグが始まって以降は、J2、あるいはJ2が始まる以前の下部リーグであったJFLからも決勝に進出したチームはしばらく出なかったが、2011年度の第91回大会でJ2のFC東京と同じく京都サンガが決勝に進出。J2から初めての決勝進出を2チームが揃って果たし、J2勢同士で天皇杯を賭けて対戦した。決勝ではすでにJ2での優勝を決め、翌シーズンからのJ1昇格を果たしていたFC東京が、同7位だった京都を総合力で上回り4-2で快勝、J2のチームとして初めて賜杯を手にした。

 JSL時代の日本鋼管とヤマハも、天皇杯を戦う以前にJSL2部での優勝を決めており、チーム力としてはその時点で1部のチームとそん色なかった。その点、今回の甲府はJ2でも下位に低迷しており、翌シーズンも2部でのプレーが確定しているチームが優勝したというのは初めての例となる。(写真の下に記事は続きます)

画像: 第61回大会ではJSL2部の日本鋼管が2部のチームとして初優勝!(写真◎サッカーマガジン)

第61回大会ではJSL2部の日本鋼管が2部のチームとして初優勝!(写真◎サッカーマガジン)

画像: 第62回大会の王者は、JSL2部のヤマハ発動機(写真◎サッカーマガジン)

第62回大会の王者は、JSL2部のヤマハ発動機(写真◎サッカーマガジン)

 1921年にア式蹴球全国優勝競技会として始まったこの大会が一昨シーズンに100回を迎えるまで、下部に残るようなチームが優勝したことはなかったにも関わらず、新しい100年がスタートした直後に2部チームが戴冠したことは、日本サッカーの成長を表しているとも言える。

 広島のミヒャエル・スキッベ監督は試合後の会見で「日本の選手はよく育成されており、技術的にも戦術的にも優れている。J1もJ2のチームもほとんど差がない」と語り、J2の甲府が優勝する力を備えていることを当然のように受け止めていた。ドイツでトップレベルの育成に携わっていた指導者にも、日本のレベル、チームの広がり、選手層の厚さが認められたということだろう。

 甲府はリーグ戦における成績こそ良くないが、試合内容では上位チームに引けを取ることのない試合が多い。チャンスを作っても決めきれなかったり、つまらないミスで失点して勝ち点を失ったことも事実だが、この日も、広島に押し込まれてはいるものの1対1で簡単には負けず、カバーリングや最後のところでの体の張り方も的確で勇敢、後半途中までは広島にほとんどチャンスを作らせなかった。さすがに終盤や延長戦では苦しい場面が増え、そこがやはりJ1上位チームとの差と言えたが、GK河田晃兵の好守にも助けられて耐えきった。

 攻撃でも三平和司、ウィルソン・リラは前線で体を張れるし、シュート感覚も優れる。2列目の長谷川元希と鳥海芳樹はテクニックがあり、攻撃のアイディアも豊富。直前に負傷してしまったが、俊足でのゴールへの意欲にあふれる宮崎純真もいる。両サイドの関口正大と荒木翔は惜しみなく上下動して活性化する。攻撃の回数は多くなかったが効果的な崩しができることはこの決勝でも十分に見て取れた。

 そしてこの天皇杯ではあきらめずに戦う姿勢が際立った。吉田達磨監督は「リーグ戦で負けが続く中でも、他を向くことなく言うことを聞いてくれる選手たちで、前向きにトレーニングしてくれる」と選手たちの取り組みを評価し、感謝を口にした。選手、スタッフとも同じ方向を向くことができるチームでなければ、J1のクラブに5試合連続で勝つことはできない。

 100年を超える歴史の中で現れた甲府の躍進は、日本サッカーの成長をそのまま示してくれたともいえよう。来季、AFCチャンピオンズリーグでどんな戦いを見せてくれるか楽しみだ。


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