上写真=PKをストップし、勝ち点1の獲得に貢献したGK鈴木椋大(写真◎小山真司)
■2021年2月28日 J2リーグ第1節(@フクダ電/観衆3,798人)
千葉 1-1 甲府
得点:(千)ブワニカ啓太
(甲)中村亮太朗
すんなりゲームに入ることができた
開幕戦で先発するのは、鈴木椋大にとってプロ10年目で初めてのことだった。昨シーズン全試合に出場した新井章太が負傷により離脱し、巡ってきたチャンス。立ち上がり13分にバックパスの処理に迷い、相手FW有田光希のプレスからボールを奪われて、あわや失点というシーンを作ってしまったが、その後は落ち着いたプレーで徐々にリズムをつかんでいった。
「思っていたより緊張せず試合に入ることができました。今日一緒にプレーしたメンバーとはトレーニングゲームでもやっていたのですんなりとプレーすることができましたね」
重ねた努力はうそをつかない。守備ユニットを機能させるべく、最後尾からコーチングする鈴木の声が何度もピッチに響いた。気迫を前面に出し、仲間の注意力を喚起する仕事も徹底してやり続けていた。
だが、守備陣が見せていたその安定感は、前半のアディショナルタイムに突如として失われることになった。相手のサイドチェンジの精度が高かったこともあり、守備陣全体が揺さぶられてしまう。しかもボックス内にDFの枚数が足りていたにもかかわらず、パスを通され、中村にうまく外されてシュートまで持ち込まれた。
それまで好リズムで守れていただけに、千葉にとってショックだっただろう。しかし、昨季と違うのは、ここでチームが大崩れしなかったことだ。選手たちはヘッドダウンすることなくプレーを継続する。鈴木も変わらずコーチングし、集中力を維持してプレーし続けた。
後半から登場したブワニカ啓太のゴールで追いつき(57分)、残り時間は無失点を継続してみせた。しかしドローが妥当な内容の中で、今度は後半のアディショナルタイムに大きなピンチが訪れる。相手CKの流れから放たれたシュートがCB岡野洵の手に当たり、ハンドの判定。相手にPKを献上してしまったのだ。すでに92分を過ぎており、決められれば、即、敗戦という絶体絶命の状況を迎えた。
プレッシャーのかかる場面だが、鈴木は落ち着いていた。相手キッカーの野津田岳人の動きを冷静に見つつ、ドンピシャのタイミングで左に飛ぶと、左手を伸ばしてPKをストップ。完璧にコースを読んだ、ビッグセーブだった。
「まずはPKをストップしたことで一つ仕事ができたと思っています。ただ1失点目はもう少し自分としてできたと思うし、反省するべきところ。全体を通しては、勝ち点1を取れたという意味で、最低限の仕事はできたんじゃないかと思っています」
「最低限の仕事」どころか、チームを救う大仕事だろう。尹監督も「最後に椋大がビッグセーブしてくれたことで、負け試合を引き分けに持ってこれた」と称賛を惜しまなかった。それでも鈴木は、はた目にはノーチャンスの1失点目についての反省も忘れず、謙虚に言った。
「次は今シーズン初のアウェーゲームということで今日とは雰囲気も全く違うものになる。難しい試合になると思いますが、今日ホームで拾えた勝ち点1を無駄にしないように戦って、ホームに帰ってこられるように良い準備をしていきたいです」
開幕戦で負けなかったことの意味は、後で振り返ったときに分かるものなのだろう。ただ、PKを止めた直後の尹監督のガッツポーズ、ベンチの歓喜、そして試合終了直後の仲間の祝福を見れば、現時点でも、いかに重要なプレーだったか分かる。
鈴木が引き寄せた勝ち点1は、チームを前向きにするという意味で、非常に価値あるものだった。
取材◎佐藤 景 写真◎小山真司