上写真=勝てる監督が理想。岩瀬健監督の目的ははっきりしている(写真◎大宮アルディージャ)
スペースとスピード
「理想とする監督は、勝てる監督です。勝つ監督を目指したい」
2021年から大宮アルディージャの指揮を執ることになった岩瀬健監督は、清々しいまでにきっぱりと言った。
「プロサッカーの監督であれば、勝つこと以外、評価の対象になりません。監督として大事なのは勝つことだと思っています。やりたいサッカーが勝つサッカーだということです」
1998年から2002年まで、選手として大宮の一員として戦ってきて、それ以来の復帰だ。引退後は浦和レッズ、柏レイソル、大分トリニータでさまざまな年代の始動を続けてきた。そして、柏で暫定的に2試合で指揮を執ったことを除けば、初めてトップチームの監督に挑むことになる。
だが、目的は明確だ。勝つこと。以上。究極にシンプルで、恐ろしいほど難しい。勝つために、どんな内容のサッカーをしていくのか。
「相手が嫌がることを、自分たちからアクションを起こして繰り返していきたいと思っています」
相手が嫌だと思うプレーであれば、どんなエッセンスでも加えていくということだ。状況に応じてどんなスタイルでも使いこなす。いわばカメレオンのように、とでも言えるだろうか。
今回のオンライン取材の中でポイントに挙がったのが、「スペース」と「スピード」という2つの概念だった。
「ポゼッションも堅守速攻も(相手が嫌がることの)一つです。サッカーの解釈では4つの局面とセットプレーがあって、セットプレーにも攻守4局面がありますが、そこで常に先手を取っていきたいと思います。相手のプレッシャーが弱いならシンプルにビルドアップで入れるし、スペースを見ながらプレーしていきます。だから、キーワードはスペースですね。スペースによって自分たちのサッカーを変えていきます」
スペースを素早く突くことが「勝つこと」の可能性を高めるならば速く攻めるし、スペースをじっくりと作って崩していくのが「勝つこと」の可能性を高めるなら、ポゼッションして攻める。どう攻めるかというよりも、どのスペースをいつ攻めるか、ということだろう。
そこで大事になるのが、もう一つの「スピード」だ。得点力を高めるためには特に重要なエッセンスだという。
「ゴール前はスピードが最優先です。選手にスピードが出せるように、上がるようにしていきたいし、そういう特徴を持った選手がいますから表現できるように共有していければいいと思っています」
スピードと表現すると速ければ速いほど優位と思われがちだが、ここでは速いことも遅いことも「スピード」になる。
「すべてのスピードですよね。選ぶスピード、走るスピード、止まるスピード、逆を突くために競うスピードもある。それに、ゆっくりするところから速くしたり、速くするところからゆっくりすることもそう。スピードがカギになります」
「勝つため」の速さと「勝つため」の遅さのどちらも、ゴール前では重要になってくるという考えが伝わってくる。
そうしたプランをチームが表現できるかどうかは、その戦略的・戦術的な質の高さだけではなく、マネジメントに大きくかかってくる。監督としての手腕が大きく試される場面だ。
「自分には監督の経験がありません。柏でU15とトップの2試合でやりましたけれど、今回が初めてです。ですから、マネジメントで大切なのは、目的をはっきりさせて、手段をみんなで試行錯誤するのが一番いいと思います」
「勝つためにプレーしていくという目的をはっきりさせて、そこに対して意見が違うのはいいことだと思うんです。勝つためにグループの選択肢が増えますから。ですから、勝つことに対して試行錯誤をシェアすること。決めることが役割なので僕が決めますが、誰が言ったのかは重要ではなくて、目の前の試合で目的をはっきりさせて、試行錯誤しシェアする正直さが大事です」
こうして「アルディージャ2021」の目的は「勝つこと」に設定された。始動日となる1月16日から選手を交えた試行錯誤が始まり、それをシェアして改善して、という日々が続いていく。
「あくまで現時点では、ですが、すべての試合に勝って昇格するつもりです」
新しい旅立ちの日に、サポーターに贈り届けた力強い言葉。岩瀬監督はその実現に向かって突き進んでいく。