明治安田生命J2リーグでアビスパ福岡が見事にJ1昇格を決めてみせた。第41節で愛媛FCに2-0で完勝、3位のV・ファーレン長崎が引き分けたことで達成した。しかし、重廣卓也の喜びは静か。ケガで戦線離脱したことが心残りだった。

上写真=爽やかに昇格を喜ぶ重廣卓也。ケガを乗り越えて目標にたどり着いた(写真◎J.LEAGUE)

「素直な気持ちが出ちゃったのかな」

「目標にしてきたことですけど、達成してみると実感が湧かない部分があったりして。でも、ホッとしています」

 重廣卓也はJ1昇格から一夜明けて、意外なほどに静かに振り返った。京都サンガFCから移籍してきて1年目で昇格にたどり着いたものの、「個人としては物足りない1年」という感情がどうしても消えないからだ。

「振り返ると、今年もケガしちゃったなという印象がやっぱり僕の中では一番強い感じですかね。そこが悔しかったと言うか、その間チームに関われなかったのですごく悔しい思いをしたという1年でした」

 7月29日の愛媛FC戦でハーフタイムに退いてから復帰するまで、およそ3カ月。右すね疲労骨折で11月4日の水戸ホーリーホック戦までピッチを離れていた。その間、チームは破竹の12連勝などでJ2リーグの主役に躍り出ていた。だからどこか、やりきったと言い切れない思いがある。

 試合後に昇格を喜ぶサポーターの前に出ていったときも、少し冷静に仲間とサポーターを見つめていたという。

「自分でもいまいち分かんないんですけど、昨日は(昇格が)初めての経験だったし、自分自身が悔いの残る1年だったので、だからたぶん一歩引いて見ていたのかな」

「ああいうことも僕は慣れていないので、端っこの方にいましたけど、みんなが喜んでいる姿を見て、この1年間、チームとしても個人としても苦しい時期もあったんですけど、結果的に良いシーズンになったなとそんな風に思っていました」

「僕がケガをしていなくてシーズンを通して出ていたら、中心になって騒いでいたと思うし、外から見ていたのは、昇格はうれしいけれどケガをして悔しい時期もあったので、そうさせたのかな。素直な気持ちが出ちゃったのかな」

 複雑な心の内を明かすのだった。

 しかし、復帰後はボランチとして重要な役割を果たしたし、シーズンの最終盤に来てギリギリの戦いの連続の中でチームを活性化したことは誇っていい。

「引き分けが続いていた中で、雰囲気自体は悪くはなくて、長崎が下から来るのはいいプレッシャーと感じられたことが大きかったですね。それがチーム力になったというか、この2試合につながったのかな。みんなが勝つために、引き分けじゃなくて勝ち切るために、何をしなければいけないかをもう一度確認できました。残り数試合でさらにチーム力が増したと思いました」

 第40節の京都戦、続く第41節の愛媛FC戦はどちらも、複数得点、無失点というチームの狙いをそのまま形にする2-0の勝利となり、全員が連動して奪って素早く攻めてという理想的な展開をピッチで描いてみせたのだ。

「僕たちが取り組んでいるアグレッシブなサッカーは、ここ2試合で表現できたかなと。アグレッシブなサッカーができれば必ず結果は出せていて、引き分けや負けの試合はそれがなかったと思うので、もちろん気持ち的な部分もあるとは思いますけど、すごくいい状態で上がっていってアグレッシブにサッカーができたと思いますね」

 その勢いを、J1にも持って挑みたい。

「いまのままではダメだと思っているので、ケガをしない体作りやサッカーのプレー面の部分でもそうですし、強度が上がったりトップレベルの選手たちとできる状況でいまの自分の実力ではまだまだダメだと感じているので、もう1回気を引き締めて、自分に矢印を向けて足りないものをしっかり身につけて、いま持っている長所をJ1で最大限発揮できたらいいなと思っています」

 2021年は自分で自分に「物足りない」なんて言わせない。


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