上写真=長崎戦どゴールを挙げた泉澤仁(左)と内田健太(写真◎J.LEAGUE)
文◎北條 聡
強度の向上とポジショナルプレーの成熟
進撃の機運が高まりつつある。
J2戦線で4位に浮上したヴァンフォーレ甲府のことだ。9月に入ってから4戦負けなし。しかも、ギラヴァンツ北九州とV・ファーレン長崎という上位2強を鮮やかに連破。北九州戦は3ー0、長崎戦は2ー0の完封勝ちと、内容自体も申し分のないものだった。
実際、シーズン再開直後の数試合と比べると、攻守の両面でプレーの質が格段に上がっている。試行錯誤しながらコツコツとチーム力を引き上げてきた伊藤彰監督の辛抱強いマネジメントがここにきて実りつつある格好だ。
逆襲へ転じた最大の要因は伊藤監督も口にするとおり、前線からのプレッシングが機能し始めたことだろう。攻から守への切り換えの速さや球際の激しさなど、プレスの成否を決めるプレー強度が向上し、各々が休みなく連動しながらボールを奪う狩りの手際も洗練されてきた。
中盤で網を張るミドルプレスはもとより、敵陣の深い位置から圧力をかけるハイプレスも積極的に試み、攻撃側のビルドアップを阻害する。こうしたハードワークが北九州戦や長崎戦で勝ち点3をたぐり寄せる一因となった。
真夏が終わったとは言え、過密日程に伴う体力面の負荷は依然として大きい。ただ、伊藤監督は当初からターンオーバーを試み、各選手が疲労を溜めず、良好なコンディションを維持する仕掛けを施してきた。そのあたりも守備のハードワークが続く要因の一つだろう。
また、チーム力を引き上げる手順も抜かりがなかった。序盤戦で失点がかさみ、守備の立て直しに着手。4ー2ー3ー1から5ー4ー1へ陣形を組み換え、辛抱強く守りながら勝機を探るプラグマティズム(実用主義)に徹している。結果、1ー0で競り勝った6節の大宮アルディージャ戦から8戦無敗と一定の成果を収めた。
もっとも、ロースコアの僅差勝負が基本線だけにドローが増える副作用に悩まされたのも事実。そこで守備力を維持しながら攻撃力を引き上げるフェーズ(段階)へ移行し、その成果がようやく現れ始めたわけだ。良い攻撃は良い守備から生まれる――という格言どおり、例の前線からのプレッシングも攻撃的な戦術ツールとしての意味合いが大きい。
いや、プレッシング以上に際立つのはポジショナルプレーの熟成だろう。攻撃の局面になると、5ー4ー1から4ー3ー3<2ー3ー5>へとスイッチする可変式とも言われるが、その実は対戦相手の位置取りに応じて各々が適所へ動くポジショナルプレーの原則に従いながら、ビルドアップの出口を探り、敵のゴールへ迫るわけだ。