この連載では2020年のJリーグで注目すべきチームやポイント、見所を紹介していく『Jを味わう』。連載第10回目はJ2の上位2強を下して4位に浮上したヴァンフォーレ甲府を取り上げる。伊藤彰監督によって攻守両面を向上させてきたチームが今、力を発揮し始めている。

しびれるような連戦が始まる

画像: 長崎戦で獅子奮迅の活躍を披露した山本英臣。勝利に大きく貢献した(写真◎J.LEAGUE)

長崎戦で獅子奮迅の活躍を披露した山本英臣。勝利に大きく貢献した(写真◎J.LEAGUE)

 人選や組み合わせによって、誰がどこへ動くか微妙に変化するあたりも心憎い。対戦相手に分析されることを見越した伊藤監督の深謀遠慮だろうか。当初は5バックの中央を担う選手(新井涼平や山本英臣)が1列(中盤に)上がり、アンカーとして立ち回る独特の方式を試みていた。

 かつて日本代表を率いたハビエル・アギーレなど、ひと昔前のメキシコ人監督たちが好んで使っていた可変式である。先の長崎戦では山本がその役回りを担い、中盤でパスワークの回転軸となっていた。だが、北九州戦での新井は最終ラインに留まり、ダブル・ピボットの一角を担う山田陸がアンカーの位置に入っている。

 山田の動きに伴い、中盤の右サイドへ上がったのは最後尾で新井の右隣りに構える小柳達司だった。同じ4ー3ー3(2ー3ー5)の並びでも、各々の立ち位置が異なるわけだ。この手の変化が守備側の的を絞りにくくしている。

 無論、守備側が前線の2枚でプレスをかけてくる際は最後尾で数的優位を保つ3ー2ー5の並びでやり過ごす。その場合もダブル・ピボットの1人が最後尾に下がるなど、いくつかのパターンを持っている。ビルドアップに迷彩を施し、守備側を惑わしながら敵陣深くボールを運んでいく。

 仕組みの妙だけではない。自慢のタレント群も各々の個性を存分に発揮している。なかでも強力なのが左サイドのトライアングルだ。前線の泉澤仁、ピボットの武田将平、フルバックの内田健太だ。3人の絡みはもちろん、ピンでも凄い。1対1で敵を圧倒する泉澤の鮮やかな仕掛け、逆サイドまで見通す武田の七色のパス、内田の鋭いクロスと神出鬼没の動きは、それ一つで大変な武器になるシロモノだ。

 いや、右サイドのキャストにも触れるべきだろう。卓抜した機動力で北九州撃破の立役者となったシャドーの太田修介や精密なキックでアシスト量産機と化している藤田など役者ぞろい。ゴールへの道筋を切り拓く人材に困らぬだけの選手層を誇っている。試合を重ねるごとにゲームモデルへの理解が深まり、イロハが共有され、誰を使っても相応のレベルを維持しながら戦えるところまで仕上がりつつある。

 無論、楽観は禁物だろう。

 今週末から始まる5連戦は昇格圏内へ食い込めるかどうかの正念場と言っていい。京都サンガ、ジュビロ磐田、アルビレックス新潟、東京ヴェルディといった力のある相手との苛烈な潰し合いが待っているからだ。すでに前半戦で対戦した新潟とは3ー3のドロー、東京Vには2-4と敗れている。ここで借りを返せるかどうか。

 しびれるような連戦が、もうすぐ始まる。


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