上写真=藤本は8月8日の琉球戦でラストマッチとなる(写真◎Getty Images)
「寛也はもっと苦しかったと思う」
自慢の左足で淡々とボールをさばき、鋭くクールに決定的なパスを突き刺す。そんな独特の美をまとう藤本寛也のプレーも、8月8日の味の素スタジアムでしばし見納めとなる。
ポルトガル1部のジル・ヴィセンテFCへの移籍。かねてから海外挑戦を希望していた若きレフティーが大きなチャンスを手にした。しかし、それは愛してやまない緑のユニフォームとの決別も意味する。
惜別マッチはJ2第10節、FC琉球とのホームゲーム。どんなプレーでファン・サポーターに感謝とお別れを告げるのだろうか。
「全然、何も。僕はいつも通りやりたいですね。点を取りたいとかアシストしたいとも思っていないので」
「もちろん最後に出たい気持ちはあります。でも、永井さんが決めたプランの中で自分はやるだけだと思います」
ピッチの上と同じように、静かに、しかし鋭く答えるのだった。J1昇格へ向けて東京Vが挑む重要な1試合ではあるものの、それ以上でもそれ以下でもなく、ましてや自分自身の最後の試合であるかどうかは関係ない。最後だろうが最初だろうが、勝つために戦う。キャプテンとして、1人のプレーヤーとして、その意志を貫くつもりなのだろう。
余計な感情の波に影響を受けるよりも、課題をはっきりと見通して改善することの方が性に合っているようだ。「攻撃の部分で、(前節の)長崎戦で無得点でしたから、最後のところの精度やアイディアを出す必要があると思っています」とノーゴールに終わった過去を悔やみ、次の試合に集中している。
もちろん、ファン・サポーターやクラブに関わるすべての人への感謝は秘めている。
「プロでは約2年半、一緒に戦わせてもらったので、感謝の気持ちを次の試合で表現できればいいと思っています。楽しみながらプレーする姿を見てもらえればいいと思います。躍動感が自分のところから出ていれば楽しめているのかな、自分ではあまり分からないですけれど」
このクラブから学んだことは「すべて」で、「いまの自分があるのはすべてこのクラブのおかげ」だという気持ちが強い。「どこが成長したか説明するのは難しい」のは、振り返ってみれば、逆説的にも聞こえるが「無意識に成長できる場所だったのかな」と思いを馳せる。
ユース時代からの恩師となる永井秀樹監督は「本当に苦しかった」と愛弟子を送り出す気持ちを言葉に絞り出したが、「寛也はもっと苦しかったと思う」と気にかける。それでも、決断したなら戦うのみだ。
8月8日、味の素スタジアム。東京ヴェルディの偉大なるキャプテン、藤本寛也のラストマッチは18時に始まる。