2月23日、明治安田生命J2リーグの開幕戦でアルビレックス新潟はザスパクサツ群馬に勝利を収めた。3ゴールの口火を切った渡邉新太は、新シーズンの始まりとなるゲームで、FWとしての強い決意を明かした。

上写真=チームを乗せる先制ゴールを挙げた渡邉(写真◎J.LEAGUE)

■2020年2月23日 明治安田生命J2リーグ第1節
 群馬 0-3 新潟
 得点者:(新)渡邉新太、ロメロ・フランク、ファビオ

新生アルビの初ゴール!

 一瞬の出来事だった。

 ザスパクサツ群馬とのJ2開幕戦。左からキャプテンのDF堀米悠斗が左足で巻くようにして中央に送ったFKは、相手DFがヘッドでクリアした。ボールはまるで、FW渡邉新太の足元に引き寄せられるように飛んできた。

「その前に2、3回、チャンスを外してしまっていて、その分、思い切り打てました。トラップしようとは考えずに振り抜きました」

 その場で軽くステップしてボールの軌道とスピードにリズムを合わせ、右足をコンパクトに振り、ほんの少しだけアウトサイドに当てたボールは、激しい追い風に乗ってゴール右に飛び込んでいった。

 新生アルビレックス新潟の初ゴール!

 決まった瞬間、渡邉新はベンチに駆け出していって、仲間たちにもみくちゃにされた。優勝したような盛り上がりには、特別な思いがこもっていた。

「開幕戦だったし、フォワードとして出ていたので結果が欲しかったですからね。チームが勝てたことが一番うれしいです」
「決めた瞬間はやっぱりうれしかったし、先制することで勝利につながるゴールになりましたから」
「今年はキャンプで(昨季までの)サイドハーフもやったりフォワードもやったりしていて、今日もどっちで出るかなかなか分かりませんでした。でも、もともとはフォワードをやっていたし、そこで出られるのならばやはり結果を出さなければいけないですから」

受け継がれたチャント

 今季でプロ3年目。新潟の下部組織で育ち、流通経済大を経て2018年にプロとして新潟に帰ってきた。ルーキーイヤーから強気とがむしゃらさが認められ、主にサイドハーフで出場機会をつかむと10ゴール、いきなり「チーム得点王」になる活躍だった。

 この年の5月、サポーターは早くもチャントを用意した。原曲は1980年代を中心に活躍した伝説のロックバンド、THE BLUE HEARTSの名曲「キスしてほしい」だ。

 新潟では2002年と03年にJ2得点王になったマルクス、14年から17年に活躍したラファエル・シルバ(現・武漢卓爾=中国)と、試合を決めるストライカーに受け継がれてきた。サポーターがこの曲に込めてきた思いを託すのに、渡邉新こそふさわしい男だと認められたのだ。

 2年目の昨季、背番号が16から11に変わったのは期待の現れだった。左右のサイドハーフを務めながら、苦手な守備にも積極的に関与してクラブのDNAを体現するような泥臭さを進んで請け負っていった。

 そして、スペインからアルベルト・プッチ・オルトネダ監督を新たに迎えた今季の初戦は、FWでの起用だった。結果がほしい。燃えた。

2つの経験に導かれて

画像: ゴールを決めた渡邉がベンチに向けて、歓喜の疾走!(写真◎J.LEAGUE)

ゴールを決めた渡邉がベンチに向けて、歓喜の疾走!(写真◎J.LEAGUE)

 群馬戦の先制弾で、きっかけになったのは相手のファウルで得たFKだ。実はこれは、渡邉新が自ら左サイドに開いてボールを受けたところを後ろから引っ掛けられたものだった。

 FWでありながら効果的な判断でライン際に出ていって組み立てに参加したのは、これまでサイドハーフとしてプレーしてきた経験が生きた証だ。

 また、この試合では何度か決定的なチャンスで決めきれず、スタンドのため息を誘っていた。特に75分には堀米の左からのクロスがゴール前でこぼれたところを拾うと、相手のスライディングのタイミングを外すようにあえて一度、足の裏でボールを止めて時間を作ってからシュートを放ったのだが、結局ブロックされてしまった。

 そこで、自身でも明かしたようにこの経験も生かして、今度はトラップせずに右足を振り抜いたことであのゴールが生まれたというわけだ。

 歓喜のゴールは、そんな2つの経験が導いた。それを人は「成長」と呼ぶだろう。

「新監督が来て新しいサッカーをする中で、監督が求めているものからは程遠いけれど、この1カ月間、キャンプでしっかりやってきて結果を出せてうれしいです。監督が求めているサッカーは浸透してきているので、あとはそのクオリティーを上げていくことが課題です」

 “渡邉新太の一撃によって、アルビレックス新潟はJ1昇格の道を歩き出した……”

 今季が終わったとき、そんな風に振り返ることができれば、3年目のストライカーにとってこんなにうれしいことはないだろう。

取材◎平澤大輔


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