上写真=浦和戦で先発フル出場した町田のサイドアタッカー、相馬勇紀(写真◎Getty Images)
失われた攻撃のバリエーション
9節終了時点で首位に立っていたFC町田ゼルビアだが、浦和レッズに0―2で敗れ、7位にまで順位を落とした。わずかな勝ち点差に多くのチームがひしめき合っているためで、連勝すれば一気に順位が上がる。文字通りの混戦模様だが、4節から3連勝し、直近6戦無敗だったことを考えれば、受け入れがたい敗戦ではあっただろう。今後上位争いを続けていくために、まだまだ課題があるという現実を突きつけられた格好だ。
浦和戦では立ち上がりから主導権を握る展開になりながら、15分にCKから失点。ショートコーナーで目線を変えられ、低いクロスからCBのマリウス・ホイブラーテンに流し込まれた。さらに38分にも浦和GK西川周作の低いロングキックからセンターサークル内で渡邊凌磨がフリックで前のスペースへ送り、走り込んだ松尾佑介に鮮やかなシュートを決められた。
前半のうちに2点のリードを許したのは今季初めてのこと。無失点に抑えられたのも2試合目のことだった。堅守と効率の良い攻撃で先手を取り、逃げ切って勝ち点を積み上げたてきた町田にとってはレアなシチュエーション、先制されたのも今季3試合目だった。
2点を追う後半にはトップのオ・セフンをミッチェル・デュークに、右ウイングバックの林幸多郎を藤尾翔太に代えて攻勢を強める陣容とした。同じポジションのデュークを投入するのは常套手段だが、本来FWの藤尾をワイドに置いたのは、黒田剛監督が試合後に「前への推進力や仕掛けを期待していた」と話したように、より攻撃的にプレーするためだ。前半は左サイドでは相馬の突破力と中山のサポートでチャンスを作れていたが、右は迫力を欠いていたからだ。
期待に応えるかのように、後半開始早々には藤尾が右からカットインしてシュートを放った。52分にも右からのクロスをボックス内で受けたデュークが胸で止めてボレーシュートを放ったように、効果があった。しかし、次第に浦和ディフェンスが対応する様になり、2点のリードを持つ相手の重心が下がったこともあって決定機を作るまでには至らない。徐々に浦和のカウンターも脅威になりスコアは動かずタイムアップ。
黒田監督が「先に失点して追いかける展開にならざるを得なかったことが試合を難しくした」と話したように、いかなるチームでも先に失点すれば苦しい展開になるものだが、町田の場合はそれがより顕著に映る。まず失点をしないことをベースにチームを作り、戦術の構築がなされているからだ。
とはいえ、こういったシチュエーションは起こりうるもので、ビハインドの状況でどんな攻撃を展開できるかが今後の課題だろう。今季、藤本一輝(→アビスパ福岡)、荒木駿太(→ベガルタ仙台)といった攻撃の駒を放出した上に、3月にはJ2時代から主力を担ってきたエリキがヴィッセル神戸へ期限付き移籍。個人の力でサイドを崩せる選手を失っているのは攻撃のバリエーションを考えれば苦しい。
現状ではその部分を相馬に頼り切っている感があり、まさに浦和戦の苦戦の原因にもなった。このような状況が続くようなら夏の移籍市場で新戦力の獲得も視野に入れなければならないだろう。
ただ「5連戦の最後の試合だった影響か、疲労もありましたし、ケガ人も出ている状況」(黒田監督)でもあり、連敗を避けることができれば、これまでのチームの強みを取り戻していけるのではないか。その意味でも次節の神戸戦は重要な試合となる(20日/@ノエスタ)。
文◎国吉好弘