上写真=4試合ぶりに復帰した稲村隼翔が最終ラインを引き締めた(写真◎J.LEAGUE)
■2025年4月6日 J1第9節(観衆36,407人/@国立)
神戸 0-1 新潟
得点:(新)長谷川元希
止めるところは止める
「いやあ、うれしいです。ありがとうございます!」
稲村隼翔がニコニコしたのは、褒め言葉のおかげである。ヴィッセル神戸を完封した最大の要因として、キャプテンの堀米悠斗が「ラインアップはかなり意識して、ジェイソン(ゲリア)とイナム(稲村隼翔)が声をかけてやってくれた」と称賛した。その言葉を聞いて、うれしくないわけはない。
4試合ぶりの復帰だった。負傷で試合から離れていた間も、チームは勝てなかった。それが、連覇中のチャンピオンを相手に今季初勝利、しかも完封も初めてだ。堀米の言う通り、その細やかなラインコントロールが物を言った。
それは「盗んだもの」でもあるという。
「千葉(和彦)さんが出ていた試合をスタンドから見ていて、ラインコントロールのところで改めて勉強になったんです。今日はジェイソンと初めて組みましたけど、コントロールの部分は本当に意識して続けました」
今季、就任した樹森大介監督が落とし込む戦い方でなかなか結果が出なかった。離脱していた日々は「自分でもちょっとごちゃごちゃしてしまった部分があって、頭の中でしっかり整理する時間にはできたかな」と明かす。
「やっぱり勝てていないことで考えることがいっぱいあって、何ができていて何ができていないか、チームとしてどういう狙いを持ってやっていくのか、そういうことがうまく整理できなかった。そこに難しさがあって、ちょっと時間がかかってしまった感じです」
そんなときに千葉のプレーが気づきを与えてくれたのだ。
気づきといえば、もう一つ。
樹森監督はハイプレスを奨励してきたが、そのことによって前線と後ろの選手の適切な距離感がつかみにくくなったのは事実だ。だが、稲村はポジティブだった。
「自分の中ではいいチャレンジだと感じていて、そこに自分たちがどうコミットしていくかでした。最初の方は舞行龍(ジェームズ)さんと組んでしっかりコミュニケーションを取ってやっていましたけど、変化するには時間かかる部分もありました。だからあまりうまくいってはいなかったけれど、今日は時間帯によって、あるいは相手の出方を見て、行くときは行く、止めるところは止めるということができていました。それは去年もできていたことなので、自分たちの良かったときに戻ろうよ、という話をしてきました」
もっと個にフォーカスすると、日本を代表するストライカーである大迫勇也とのバトルは見ものだった。堀米は空中戦で大迫に勝てなければ一度ボールを持たせることでプレスバックの時間を作る、という組織的な守備の工夫について明かしたが、それをクールに実行したのが稲村だ。
「自分とジェイソンが釣られて出過ぎてしまうと、その裏を使われてしまうことになる。そらせて2列目が走り込んでくるのも神戸さんの得意な形だと思うので、無理して出なくても、しっかり帰陣させて構えてから守ろうということをチームとして共有していました」
個でも組織でも、ビルドアップにおけるパスでもゴール前で体を張る守備でも、稲村が入るだけで最終ラインがあんなにも引き締まるのだ。ルーキーという枠を超えた存在感を、「聖地」国立競技場で堂々と示してみせた。